DEEP FOREST/幻影の構成

読書記録。週2冊更新。A:とても面白い B:面白い or ふつう C:つまらない D:読むのが有害

読書

小野不由美『残穢』B+、マイク・レズニック『キリンヤガ』D

【最近読んだ本】 小野不由美『残穢』(新潮文庫、2015年、単行本2012年)B+ 最近の作品のような気がしていたが、もう10年も前の作品なのだった。 歴史学的なロマンを持たぬでもないルポルタージュ風の作品で、小野不由美自身と思しき「私」とファンである久…

真保裕一『ホワイトアウト』B、陳舜臣『琉球の風 全3巻』B

【最近読んだ本】 真保裕一『ホワイトアウト』(新潮文庫、1998年、単行本1995年)B 山奥で雪に閉ざされたダムの発電所をテロリストが占拠し、電力と圧倒的な水量により麓の町を人質にとって政府に要求をつきつける。絶体絶命のその状況に、ただ一人彼らの目…

今邑彩『鋏の記憶』B、牧野修『ネクロダイバー 潜死能力者』B

【最近読んだ本】 今邑彩『鋏の記憶』(中公文庫、2012年、単行本1996年)B 物に触れるだけで持ち主の情報を読み取ることができるという、サイコメトリー能力を持つ女子高校生が主人公の、ホラー風ミステリである。連作短編で4話収録である。 最近の、ルール…

平山瑞穂『出ヤマト記』B、京極夏彦『ヒトごろし』B

【最近読んだ本】 平山瑞穂『出ヤマト記』(朝日新聞出版、2012年)B どう読めば良いのか、困る小説である。 窮屈な日常に不満をもつ少女が、実の祖父がいるという北の楽園「ヘブン」を求めて旅をする、ディストピア小説といえなくもない。 だがそう読むには…

伊坂幸太郎『陽気なギャングが地球を回す』B、澤村伊智『ずうのめ人形』 B+

【最近読んだ本】 伊坂幸太郎『陽気なギャングが地球を回す』(祥伝社文庫、2006年、単行本2003年)B 4人組の銀行強盗がいる。ひとりは他人の嘘を見抜く能力者、ひとりは巧みな弁舌をもつアジテーター、ひとりは正確無比の体内時計の持ち主、ひとりはスリの…

筒井康隆『恐怖』B-、伊島りすと『ジュリエット』B

【最近読んだ本】 筒井康隆『恐怖』(文春文庫、2004年、単行本2001年)B- とある町で連続殺人事件が起こる。どうやらこの町の文化人が狙われているらしい。となると次に狙われるのは自分ではないか――という恐怖に襲われた初老の作家が主人公。 あらすじを読…

西村京太郎『十津川警部の休日』B、熊谷徹『なぜメルケルは「転向」したのか』B

【最近読んだ本】 西村京太郎『十津川警部の休日』(徳間文庫、2005年、単行本2003年)B 実は西村京太郎を初めて読んだのだが、意外に面白いし、読みやすい。 ただし文体は 十津川が組み伏せた相手は、突然、泣き出した。 十津川は、相手を放して、立ち上っ…

早川いくを『態度がデカイ総理大臣-吉田さんとその時代』B、なめたけ『スーパーノヴァはキスの前に①』B

【最近読んだ本】 早川いくを『態度がデカイ総理大臣-吉田さんとその時代』(バジリコ、2010年)B 吉田茂の伝記。 吉田茂といえば戸川猪佐武の『小説吉田茂』のような名著があるのに、この上なにを加えようとしたのかというと、それがよくわからない。 戸川…

三田誠広『堺屋太一の青春と70年万博』B、関容子『日本の鶯 堀口大學聞書き』A

【最近読んだ本】 三田誠広『堺屋太一の青春と70年万博』(出版文化社、2009年)B ふつうの評伝である。三田誠広は堺屋太一と特に親交があったわけではなく、これを書くために勉強を始めたレベル。編集者からの依頼で堺屋に長時間のインタビューをして、それ…

沢木耕太郎『危機の宰相』A、さがら梨々・岡本健太郎『ソウナンですか?10』A

【最近読んだ本】 沢木耕太郎『危機の宰相』(文春文庫、2008年)A 池田勇人は、所得倍増計画をぶちあげ日本の高度経済成長をもたらした。そう言ってしまうと簡単であるが、日本経済がああも発展するなどと想像することすら難しかった時代に、なぜそんなこと…

大下英治『小説田中軍団 上・下』B、八薙玉造『鉄球姫エミリー』B

【最近読んだ本】 大下英治『小説田中軍団 上・下』(角川文庫、1987年)B 時は1987年5月19日、ポスト中曽根をめぐり、最終的には首相になる竹下登と、彼と総裁の座を争って敗北する二階堂進(まったく知らなった)が決裂し、対決が決定的になるところから話…

雑喉潤『三国志と日本人』B、片岡義男『スローなブギにしてくれ』B+

【最近読んだ本】 雑喉潤『三国志と日本人』(講談社現代新書、2002年)B 日本における三国志の受容を紹介した本。太平記や八犬伝への三国志の引用、吉川英治版における史実と創作の比較などを紹介してなかなか面白いが、読んでいるとただネタを並べて見せて…

リットン・ストレイチー『エリザベスとエセックス』B+、三宅乱丈『fish』1巻B

【最近読んだ本】 リットン・ストレイチー『エリザベスとエセックス』(福田逸訳、中公文庫、1987年、原著1928年)B+ イギリスでは高名な伝記作家であるらしい。エリザベス一世(1533-1603)の晩年において女王の寵愛を受けながら、失態を重ねて巻き返そうと…

陳舜臣『インド三国志』B+、石持浅海『人面屋敷の惨劇』B

【最近読んだ本】 陳舜臣『インド三国志』(講談社文庫、1998年、単行本1984年)B+ ムガル帝国最大の版図を築きながら、同時に帝国の衰退の原因もつくったアウラングゼーブ帝を中心に、マラーター族を率いて生涯ムガル帝国を苦しめた英雄シヴァージー、イン…

北野勇作『どーなつ』B+、岡嶋二人『クラインの壺』A

【最近読んだ本】北野勇作『どーなつ』(ハヤカワ文庫、2005年、単行本2002年)B+ 何者かによる日常への侵略を、侵略された者たちの意識から描いているので、何が起こっているのかわかるようなわからないような、そういう連作短編集。 最近はどうだか知らな…

大島直政『ケマル・パシャ伝』A、アンナ・クラーク『ルースをさがして』B

【最近読んだ本】 大島直政『ケマル・パシャ伝』(新潮選書、1984年)A オスマン帝国のもとで史上空前の繁栄を謳歌しながら、宗教の制約による西洋の近代化に遅れをとり、列強の蚕食を受けそうなところを、軍事・政治両方の才能によりトルコ国民を率いて独立…

小野寺公二『平泉落日』A、井上恭介・藤下超『なぜ同胞を殺したのか ポル・ポト 堕ちたユートピアの夢』A

【最近読んだ本】 小野寺公二『平泉落日』(光文社文庫、1992年、単行本1968年)A 奥州藤原氏の滅亡というと、鎌倉時代を扱った歴史小説では話題としては外せないものの、たいていは秀衡と義経のあいつぐ死、頼朝自身による奥州討伐、味方の裏切りによる泰衡…

東野圭吾『犯人のいない殺人の夜』B+、吉野源三郎『エイブ・リンカーン』A

【最近読んだ本】 東野圭吾『犯人のいない殺人の夜』(光文社文庫、1994年、単行本1990年)B+ 東野圭吾の初期短篇集ということだが、どれも質が高い。とくに学生がかかわるものが良かった。表題作など大人のミステリはひねりすぎた感じがあるが、少年ものは…

吉川英治『平の将門』B+、北方謙三『悪党の裔』B

【最近読んだ本】 吉川英治『平の将門』(吉川英治歴史時代文庫、1989年、単行本1952年)B+ 吉川英治の描く将門は、英雄でもなんでもない。 イメージとしては、気の優しい力持ち、というところだろうか。頭は良くない。学もなく、弁も立たない。むしろ、一族…

今東光『蒼き蝦夷の血 第4巻』B、馳星周『不夜城』B

【最近読んだ本】 今東光『蒼き蝦夷の血 第4巻 奥州藤原四代・秀衡の巻 下巻』(徳間文庫、1993年、単行本1978年)B 古本屋に最終巻の4巻だけあったので買ってきてみたが、中をのぞくとほとんど義経による平家滅亡の話だったので、問題なく読める。話は平家…

道尾秀介『光』B、梓林太郎『回想・松本清張 私だけが知る巨人の素顔』A

【最近読んだ本】 道尾秀介『光』(光文社文庫、2015年、単行本2012年)B 小学生男子のひと夏の冒険を描いた、道尾版『スタンド・バイ・ミー』である――ということに気づいたのは、エピローグでそれぞれのその後が語られてからだが。 面白いのだが、どうして…

東野圭吾『十字屋敷のピエロ』B、葉室麟『実朝の首』B

【最近読んだ本】 東野圭吾『十字屋敷のピエロ』(講談社文庫、1992年、単行本1989年)B 十字型の奇妙な屋敷で起こる連続殺人事件を描くミステリ。本作ではもう一ネタ、意識を持つ奇妙なピエロ人形というものが出てきて、そのピエロから見た事件が語られる。…

澤村伊智『予言の島』B、村崎友『風の歌、星の口笛』B

【最近読んだ本】 澤村伊智『予言の島』(角川ホラー文庫、2021年、単行本2019年)B 終盤までは楽しんで読めた気がする。舞台は瀬戸内海にある小さな島である。20年前、ある有名な霊能力者が「恐ろしい惨劇が起こる」と予言して死んだというその島に、「運命…

二階堂黎人『聖アウスラ修道院の惨劇』B+、梅原克文『サイファイ・ムーン』B

【最近読んだ本】 二階堂黎人『聖アウスラ修道院の惨劇』(講談社文庫、1996年、単行本1993年)B+ 実は二階堂黎人を初めて読んだ気がするのだが、予想していたより面白かった。これは日本で宗教ミステリを試みた、稀有な例である。野尻湖畔にある日本とは思…

今邑彩『そして誰もいなくなる』B、辻仁成『海峡の光』B

【最近読んだ本】 今邑彩『そして誰もいなくなる』(中公文庫、2010年、単行本1996年)B 名門女子高で、演劇部の生徒たちが『そして誰もいなくなった』になぞらえるように次々に殺されていき、殺された生徒たちがそれぞれに犯していた「罪」が明らかになって…

機本伸司『メシアの処方箋』A、邦光史郎『源九郎義経』B

【最近読んだ本】 機本伸司『メシアの処方箋』(ハルキ文庫、2007年、単行本2004年)A SFというジャンルのひとつの極北と言えるかもしれない。 「技術的に可能だからやる」というSFのひとつの原則をつきつめた、読者をも置いてきぼりの思考実験小説である。 …

島田雅彦『カオスの娘 シャーマン探偵ナルコ』B、野城亮『ハラサキ』B

【最近読んだ本】 島田雅彦『カオスの娘 シャーマン探偵ナルコ』(集英社、2007年)B シャーマンとしての力を持ち現代に生きる少年が、凶悪な犯罪の犠牲んになって、自身もまた凶悪な犯罪者となった少女を助けるべく、巨大な悪と自身の運命に立ち向かうスピ…

周木律『眼球堂の殺人』B、マシュー・メイザー『サイバーストーム 隔離都市(上・下)』B

【最近読んだ本】 周木律『眼球堂の殺人』(講談社文庫、2016年、単行本2013年)B 新本格の王道である館もの。面白かったのだが、放浪の数学者という主人公にあまり魅力がなく、館も見た印象がなんだかスカスカな感じで、圧倒的な存在感というものがなく、ち…

ブレイク・クラウチ『パインズ 美しい地獄』B+、今村昌弘『屍人荘の殺人』A

【最近読んだ本】 ブレイク・クラウチ『パインズ 美しい地獄』(東野さやか訳、ハヤカワ文庫、2014年)B+ ある男が路上で目覚めるところから始まる。彼は記憶を失った状態でふらふら歩きだすが、やがて自分がシークレットサービスの特別捜査官であること、失…

井上夢人『オルファクトグラム(上・下)』A、カザケービチ『青いノート』B+

【最近読んだ本】 井上夢人『オルファクトグラム(上・下)』(講談社文庫、2005年、単行本2001年)A これは絶対に面白いと思って、万全のコンディションのときに読もうと思いつつ、機会を得ずに15年くらい積んだままになっていた本を、ようやく読んだ。 そ…