DEEP FOREST/幻影の構成

読書記録。週2冊更新。A:とても面白い B:面白い or ふつう C:つまらない D:読むのが有害

【最近読んだ本】

森真沙子『真夜中の時間割 転校生2』(角川ホラー文庫)A
 『転校生』の続編のようだが、転校生はエピローグで登場するだけで、ほぼ独立している。あまり期待せずに読んだのだが、マンネリを恐れてか、掌編を随所に挟んだりして変化に富む構成となっており楽しめる。主人公が転校生ではなく新任教師としたことで、青春ホラーというより「恐るべき子どもたち」を描いたものとなっているのも良い。
 難点は相変わらず各編ごとのつながりがわからないことで、1話で事件の舞台となった弓道場が後の方でまた出てくるのに何も言及されないなど、一体どんな意図なのかわからないのが釈然としない。書き下ろしなのだから、何の意味もないとは思えないのだが。
 少年の抱く不合理な死への衝動を描いた第一話が衝撃度では一番だが、好みは掌編。あとから考えれば色々ツッコミどころがあるが、その暇を与えずにラストに到達し、背筋を寒くさせることに成功している。
 


小川勝己『撓田村事件』(新潮文庫)A
 ある小さな村に転校してきた少年が、惨殺死体で発見される。その事件は村を支配する一族を中心に、村の歴史までも巻き込んで拡大していくことになる、壮大なミステリ。
 全体の構図は横溝オマージュで、探偵役は最近で言えば殊能将之石動戯作のようだし、オカルト要素の使い方は舞城王太郎に似ているし、イジメの場面は桐生祐狩の『夏の滴』を想起させる、などと考えると、結局彼のオリジナリティは変態シーンにあることになってしまうような気がするが、しかしこれらの要素を無駄なく使って面白い物語を構築しているところはよく考えればすごいところである。自分の世界に閉じこもっていた少年たちが大人の世界へ足を踏み入れていく青春小説としても申し分ないし、それが横溝的な血筋の因縁話とオーバーラップして語られ、話の比重がどちらかに偏るということもなく、ただのギャグに思えた痔の治療の話まで伏線になっているなど、一切の無駄がない。著者の中ではどちらかというと異色作のようだが、もっとこういうのが読みたい。



日明恩『ギフト』(双葉文庫)B
 死にきれずにこの世に残る霊が見える孤独な少年と、ある事件をきっかけに社会に背を向けた男が出会い、死者を「本当に死なせてあげる」べく奮闘する連作短編集。他の人でも少年に触れると死者が見える、というのがユニークなアイデアである。
 面白いのだが、どうも短編ということで話を急ぎすぎているのか、背景や真相がある瞬間に一息に語られてしまうあたり、わかりやすいがあまり上手いとは言えない。二人の出会いから親密になるまでの経緯も、男の干渉を受け入れる少年があまりに無防備に思えるし、男の方もなぜ不合理な超能力をすぐ受け入れられたのか、不自然さが気になる。また、少年に接近していく男が、実はなにかの意図を隠し持っていることをたびたび匂わせていることに不快感もあった。
 とはいえ、個々のエピソードはさすがに面白い。人間が利己心から起こすどうしようもない悲劇が描かれる一方で、人間の善としての側面もしっかり描いているあたり、他のメフィスト賞作家とは一線を画すところ。一番面白かったのは、身勝手に生き、同僚の親切を恋心と勘違いしたあげく、あてつけの狂言自殺に失敗して死ぬという、どうしようもなさすぎる女性の話で、一体どう終わらせるか心配になったくらいだが、ややブラックながらやはり人の温かさを感じさせる終わり方になっている。やりきれない悲劇ばかり続く割に、読後感は重くない。続編もあれば読みたいところだが、あまり作る気はなさそうな終わり方である。
 お遊びとして、テーマに合わせた幽霊ものの映画の話題が出てくるのだが(『シックス・センス』など)、個人的には超能力者の孤独ということで、飯田譲治の『ナイトヘッド』もあげてほしかったところである。でもあればゴーストストーリーというわけではないからな……