DEEP FOREST/幻影の構成

読書記録。週2冊更新。A:とても面白い B:面白い or ふつう C:つまらない D:読むのが有害

【最近読んだ本】
三好徹『旅人たちの墓石』(徳間文庫、1982年、単行本1977年角川書店)B
 舞台は1973年のチリ。「赤いアジェンデ」政権に対するピノチェト将軍のクーデターを背景にした国際サスペンス小説である。解説で、アジェンデ大統領はカストロから贈られた小銃で自殺したという説がある、などと言っていたので、その真相に日本人がかかわるのかと思ったら、さすがにそれはなかった。それどころか、日本人のみならず当事者のチリ国民さえもチリ・クーデターにおいては傍観者に過ぎず、東西冷戦のせめぎあいの中で翻弄されるだけである。
 主人公の新聞社特派員がクーデターの勃発を目の当たりにする中で、背後にあるCIAの巨大な陰謀の存在に気づいていく――という筋であるが、変にひねらないで混乱のサンチャゴ市街を描いてほしかった気がする。クーデターの気運高まる市街で頻発する暴動、生死の危険をかいくぐる大冒険、そのさなかでの美女とのロマンスといったスペクタクルが、すべてアジェンデ政権の腐敗を過剰に印象付けてクーデターを正当化するためのCIA演出の芝居であったというバカバカしいオチは、考えてみれば五木寛之の『蒼ざめた馬を見よ』と同型であり、おそらくこのパターンの物語は当時たくさん書かれたのであろう。
 結局のところ、国際社会の背景には常に米ソの争いがあり、ラテンアメリカも日本も、どのような理想を持とうとも彼らの都合で押しつぶされていくだけという無力感。主人公がその中で「真実」を垣間見るがのが、この状況でのせめてもの「抵抗」ということになるのだろうか……


御園生みどり『姫の婿取り はじまりはさかしまに!』(ビーズログ文庫、2015年)A
 戦国時代の小国を舞台に、婿探しをすることになった領主の孫娘(実は男)と、それに現れた求婚者の剣士(実は女)が繰り広げるラブコメディ。心理描写が丁寧で、その分進みが遅い印象があるものの、一巻でうまくまとめている。求婚者のライバルイケメンがダークサイドに堕ちたあげくかませ犬として終わるのがちょっと哀れだが、全体的には平和に落着する。ヒロインは領主を裏切った婿の子で、男の子として生まれると殺される運命にあったので母が領主にも内緒で女子と偽って育てたとか、かなり凄惨な殺し合いが裏にあったりするし、作中でもあわや合戦になりかけたりもするが、波乱を迎えながらうまくおさめてみせている。
 男装・女装ものラノベとして見ると、二人とも何年も男装/女装して生きてきたせいで、むしろ女/男に戻った時に戸惑いを感じているのが面白い。ふつうは異性の体になったことへの戸惑いを感じる話が多いのを考えると新鮮である。
 続編が読みたいと思ったが、作者はこの一作でえんため大賞特別賞を受賞したきりで沈黙したらしいのが残念。古本で買ったため特典ペーパーがなかったのだが、内容は何だったのだろうか。後日談だったらぜひ読みたいものだが。