DEEP FOREST/幻影の構成

読書記録。週2冊更新。A:とても面白い B:面白い or ふつう C:つまらない D:読むのが有害

佐々木禎子『くくり姫』B、パトリシア・カーロン『ささやく壁』B

【最近読んだ本】

佐々木禎子『くくり姫』(ハルキ・ホラー文庫、2001年)B

 懐かしき世紀末小説、という印象である。幼いころから性的虐待を加えていた父を殺してしまった11歳の少女が、脳裏に響く菊理姫(くくりひめ)の予言に導かれたという謎の大学生の青年に連れられて、夢とも現実ともつかない不思議な旅に出る。

 この「つまらない日常を衝動的に破壊してあてのない旅に出る」という図式は、もちろんロードムービーとしてケルアックの昔からあるものだが、こういう旅の果ては終末の風景こそが妙にぴったりで、懐かしささえ感じてしまう。

 異端の日本神話、UFO、超能力、予言といった90年代的な要素をちりばめつつ、ただ頭の中の命令に従って殺戮と供儀の儀式を繰り返す青年と、彼に従いながらも平穏な安息の日々を求める少女、途中で加わるUFO好きで神がかり的な少年の織りなす心理ドラマは、不安定さをかかえたまま進んでいくために、その行く末が気になって最後まで読ませる力がある。ただ、こういう小説を読むうえでは、やはり「世紀末」の気分というものは不可欠だと思った。破滅の先にこそ希望があるという考え方への共感は、現在となっては難しい。

 

パトリシア・カーロン『ささやく壁』(富永和子訳、扶桑社ミステリー、1999年、原書1969年)B

 亡き富豪の妻・サラはある日突然の発作で倒れ、全身不随となる。しかし身体は動かせないものの、彼女の意識は明晰なままで、周りで何が起こっているかはわかっていた。ある日、自分の身辺で恐るべき殺人計画が進行していることを知った彼女は、なんとかできるようになった片目のまばたきだけを頼りに、なんとかそれを人に知らせようとするが……

 という、(主に主人公の状況が)息詰まるサスペンスである。これを読んだのは正直怖いもの見たさというべきか、全身不随で意識は明晰という絶望や焦燥、恐怖といった生理的な感覚がリアルに描かれていたらどうしようかという思いがあったのだが、そういった感覚的な描写は薄く、たとえばトランボの『ジョニーは戦場に行った』や三島由紀夫の「怪物」のようなものとはだいぶ異なる。あくまで「すでに真相を知っているのにどうにもできない」という状況をどう打開するかという、ゲーム的な興味が中心にあり、結末は希望をもたせるものでホッとする。

 読み終えた後にwikiで作者のページを見たところ、作者は実は重度の聴覚障害者であったことが、2002年の死後に明らかになったという。出版社とは手紙のみのやりとりで、インタビューも断っていたため、生前はその事実は全く知られていなかった。解説からみても、コミュニケーションがうまくいかないことによる悲劇を扱った作品が多いようで、聴覚障害への言及を避けながら、うまく読み物として成立させながら、作者が作品を通して訴えようとしていたものをうかがわせる。