DEEP FOREST/幻影の構成

読書記録。週2冊更新。A:とても面白い B:面白い or ふつう C:つまらない D:読むのが有害

北方謙三『不良の木』B、フレデリック・ポール『チェルノブイリ』B

【最近読んだ本】

北方謙三『不良の木』(光文社文庫、1994年、単行本1991年)B

 しがない私立探偵が、山奥で怪我した14歳の少年を偶然たすけたことから、少年とその親の確執をめぐるトラブルに巻きこまれる。淡々とした無駄のない文体、信条をつらぬくスタイルの語り手など、読んでる間は文句なくカッコいいし、策士として立ち回ろうとしつつうまくいかない少年が成長していく姿も良い。主人公に振り回されながらも、最後は自ら父に立ち向かおうとする彼は、どことなくシンジとゲンドウに重なるようなところもある。

 しかしハードボイルドというのは、たいてい主人公の視点から描かれるため、読者には行動の理由がわかるのだが、作中人物にはどうなのか。何しろ自分のルールに沿って依頼を受けたり受けなかったり、時に依頼を無視して勝手な行動をとり、しかもほとんどしゃべらないということでは、さぞ不気味なのではないだろうか。さりとて彼らは主人公に頼らざるをえない立場で、最終的に解決するものの、本当にこれで良いのかと毎度思ってしまう。

 

フレデリック・ポール『チェルノブイリ』(山本楡美子訳、講談社文庫、1989年、原著1987年)B

 チェルノブイリ原発事故を、アメリカ人SF作家のフレデリック・ポールが、当時グラスノスチの進行の中で公開された資料を駆使して書き上げた、500ページに及ぶノンフィクション・ノベルである。事故の進行はかなり事実に忠実なようだが、登場人物のドラマは作者の創作らしい。そのため、今読む価値は低いとは思うが、関係者とその家族のドラマを描いて末期ソ連の国民生活の史料のようになっているし、アメリカの冒険小説らしく、みんな最後は前向きに危機に立ち向かって読みやすい。とはいえ強健だった関係者たちが放射能障害に苦しみながら死んでいく姿は、みなユーモアを忘れずにふるまっているとはいえ凄惨である。

 印象的なのは、前書きでポールがしきりにゴルバチョフ下のソ連を絶賛していることで、アメリカ人の彼がソ連原発事故の小説を書いたのも、「自国に不利な情報をここまで公開することができるようになった!」という宣伝の意味が、おそらくある。そのあたり、御用作家のように見せつつ、作中では昔のソ連への郷愁や直らない旧弊さを語らせるような箇所もあり、老獪さを感じさせる。