DEEP FOREST/幻影の構成

読書記録。週2冊更新。A:とても面白い B:面白い or ふつう C:つまらない D:読むのが有害

小野一光『風俗ライター、戦場へ行く』B、鷲田旌刀『放課後戦役』A

【最近読んだ本】

小野一光『風俗ライター、戦場へ行く』(講談社文庫、2010年、単行本2001年)B

 ある種、狂気の記録といえるのかもしれない。白夜書房のライターだった著者が、失恋のショックで1989年、23歳の夏に海外に行き、香港、タイを経て、なりゆきでカンボジア密入国し、戦場を目の当たりにする。その後も取りつかれたように、湾岸戦争アフガニスタン内戦、9・11テロ、自衛隊イラク派遣など、紛争のたびに出かけていく。その割に、「ボク」の視点から凄惨な戦場はあくまで軽く語られる。みずから「取材にかこつけた見物」と認めてみせる。危ないところには決して近寄らない私には信じがたいところである。

 だが、読むうちに飽きてきてしまう。刺激をもとめて紛争地に行くことにして、苦労して入国し、危ない目にあって来たことを後悔するが、紛争地につくと度胸がついて取材をし、凄惨な戦場を目のあたりにして戦争へのやりきれなさを抱き、そして帰るときはもう二度と戦場には行かないと誓う。しかし帰国してしばらくすると、また刺激をもとめて紛争地へ――というパターンがくりかえされる。空爆下のカブールで結婚式の音楽を演奏し続けたミュージシャンへのインタビューや、子どもを狙って投下されたおもちゃ型の爆弾の話などは印象に残ったが、しかし無駄が多い。ひとつの紛争地についてじっくり読んでみたい――というのは、他の著書でということになるのだろうが。

 

鷲田旌刀『放課後戦役』(コバルト文庫、2002年)A

 久しぶりに読んだ。思い出補正もかかっていると思うが、やはり面白い。

 崇高な教育理念を掲げた大学生組織「エミイル」は、活動を通じて次第に過激化していき、長野や新潟を根拠地に、国家に対して武装蜂起を開始する。自衛隊がのきなみ海外の紛争に派遣されている最中の事件であり、隙を衝かれた政府は、警察部隊が手もなく撃退されたことから、高校生からなる戦闘部隊「高等生徒隊」を組織する。主人公もまた、高校入学とともに、エミイルと戦う兵士になるべく訓練を受けることになる。訓練を通してかけがえのない仲間を得る少年たちだが、その背後では戦争終結のための陰謀が、少年たちも巻きこんで進行していた――

 という感じで、250ページに満たない中にずいぶん詰めこまれている。異色作ともみえるが、先行してコバルト文庫須賀しのぶの『キル・ゾーン』があってこそ認められたものだろう。

 こういうジャンルのマニアが読めば色々ツッコミどころはあるだろうが、ミリタリーサスペンスである以上に、本作は少年たちが戦争に正面から立ち向かう、古き良きジュブナイルとして完成している。

(以下ネタバレ)

 中盤から少年たちが参加する、戦争の指導者を拉致して停戦の交渉につかせるという作戦は、しかし大人たちの思惑でひねりつぶされ、友情を犠牲にしてまで理想に身をささげようとした少年も、戦闘のなかで自分の役目を果たそうとした少年も、次々に死をむかえる。すべてが徒労に終わった彼らの前で、ついに自衛隊が帰還し、大規模な鎮圧作戦が始まる。

 少年たちのオトナ社会への反抗と挫折、そしてその中で確かにあった美しい絆という、ジュブナイルのひとつの典型をなぞりながら、ハードな戦争ものを展開する本作は、個人的にはコバルト文庫のベストに入る。明治ていかのイラストも、暗い戦時下と少年の純粋さを描き出していて良い。

 作者はコバルトで三作ほど書いたのち、政治家になった。ネットでもラノベを書いた政治家として話題になった覚えがある。清水朔や友桐夏など、かつてのコバルト作家がリバイバルする昨今、ぜひ新作が読みたいと思う。