DEEP FOREST/幻影の構成

読書記録。週2冊更新。A:とても面白い B:面白い or ふつう C:つまらない D:読むのが有害

安原顯『畸人伝・怪人伝 シュルレアリスト群像』A、ソウルダッド・サンティヤゴ『婦警トーニの爛れた夏』A

【最近読んだ本】

安原顯畸人伝・怪人伝 シュルレアリスト群像』(双葉社、2000年)A

 ガラ(ダリを天才に仕立てあげた女性)、アルトーバタイユルーセルの4人の伝記――というより、彼らについての安原が気に入った評伝を紹介した本。もとは『鳩よ!』で10人ほどの畸人・怪人を紹介しようと連載していたのが、雑誌が廃刊になったため、4人分をまとめて単行本にしたものだという。このあとはルイス・キャロルが予定されていたようである。

 これは意外な発見だが、彼らのやぶれかぶれな生きざまは、真面目でも心酔でもなく、安原顯のやや揶揄的な文章がよくあっている。どう価値づけようとも、シュルレアリストたちのやることはいいところ「悪ふざけ」なものが多いわけで、それを語るにはそれにふさわしい文体があるのだ。

 安原自身の自慢めいた回想も差しはさまれ、安原顯の著書としてはあまり目立たない位置にあるが、読んで損のない一冊である。

 

ソウルダッド・サンティヤゴ『婦警トーニの爛れた夏』(村上博基訳、新潮文庫、1989年、原著1988年)A

 原題はUNDERCOVER(覆面捜査官)。ちょっといかがわしい邦題ではあるが、そういうシーンがないわけではないものの、いたってシリアスなサスペンスである。

 婦人警官のトーニは、麻薬中毒の弟の起こした火事で、弟のみならず愛する娘を喪ったという心の傷をもっており、それゆえに麻薬による犯罪をなくすために、生まれ育ったマンハッタンの下町での危険な勤務を自ら希望する。

 だが、昔の捜査記録を偶然目にした彼女は、弟と娘の死が、火事に見せかけた殺人であったことを知ってしまう。彼女は真相をさぐるために、娼婦に身をやつし、麻薬取引の現場に自ら飛び込み、孤独な捜査を続ける。

 トーニは真相を探ろうと裏社会に深入りする内に麻薬中毒に陥ってしまい、一方では警察の同僚とは幸せな恋愛も始まりつつあり、不幸と幸福の大きな振幅のなかで、向かう先は破滅か救済か、というスリルで一気に読ませる。それはストーリーが面白いからということではないのだが、とにかく最後まで読ませる力は持っている。

 明かされる真相はそれほど意外性もなく(あの男が真犯人になるかと思ったのに)、ここまで追い込まれてハッピーエンドなのが意外といえば意外であるが、おかげで読後感は悪くない。

 女性の立場で男社会の犯罪にどう立ち向かうか、というテーマを描いている点で、フェミニズム文学からも再評価されるべき作品と思うが、やや狙いすぎた邦題のせいもあってか、他の作品は訳されないままになってしまったらしい。アマゾンでも2,3冊ながら他の作品もあるようで、いつか読んでみたいものである。