【最近読んだ本】
甲南大学・松山大学・甲子園短期大学などで民俗学や人類学を教えるなかで得られた心霊体験を分類・分析してまとめた本。
さまざまな心霊体験の事例集としては面白い。冒頭にエピグラフのように挙げられた、
ある日、昼食後に居間で父とふたりでテレビを見ていた私は、ついウトウトと眠ってしまった。そして、不意に、20センチメートルほど宙に浮きあがったかと思うと、今度は、いきなり突き落とされる感じがして目がさめた。一瞬、夢だと思った。ところが、驚いたことに、父がこう言ったのだ。
「お前、ナニ浮いてるんだ? それに、急に落ちるし……」
などは、本当はもっと長い話なのだが、いったい誰が異常なのか、色々な解釈ができて、不条理な超短編のような面白さがある。
ただ、分析の段になると、
非凡さにあこがれ、好んで風がわりな存在であろうとする意識が、誰の目にもあきらかな一面はあった。そして、自らの非凡さを信じるために、霊感のあることを、機会あるごとにたしかめたがっていた。もっとも、今になって思えば、それは、自己への思い入れから発していたコンプレックスだったのである。(p.76)
彼女たちは、そのようにして「霊感少女」のふるまいを見せることで、いったい、何を望んでいたのだろう。
答えは簡単である。霊感のあることが、皆の注目を集め、座の主導権を握って主役化する鍵になるからだ。(p.86)
といった記述がいくつも見られ、内心ではバカにしている風があるし、学問的な枠組みとしてスティグマや通過儀礼を持ちだしてくるのも図式的である。まだこの時点では、こういったテーマを語るツールが少なかったのだろうが。あくまで事例集として読みたい。
なお、この事例が収集されたのは平成3年~6年。オウム事件がこういった体験談にどのような影響を及ぼしていったのかは気になるところである。
落合信彦『崩壊 ゴルバチョフ暗殺(全3巻)』(集英社文庫、1992年)B
『崩壊① ゴルバチョフ暗殺・野望篇』
『崩壊② ゴルバチョフ暗殺・欲望篇』
『崩壊③ ゴルバチョフ失脚』
という3巻構成になっている。1992年発行ということで、3巻をかけてソ連崩壊の内幕を描いているのかと思ったら、架空人物オンパレードの1巻完結のスパイ小説が3巻つづいて、なにごとかと思って確かめてみたら、
1989年10月 『ゴルバチョフ暗殺』刊行(文庫の野望篇)
1990年3月 『ゴルバチョフ暗殺Ⅱ』刊行(文庫の欲望篇)
1991年2月 『ゴルバチョフ失脚』刊行
1991年8月 ソ連8月クーデター
1992年11月 『ゴルバチョフ暗殺』『ゴルバチョフ失脚』が、
『崩壊』全3巻として文庫化
という流れで、ソ連崩壊の舞台裏を描くことなど期待のしようもなかった。結果的には、ゴルバチョフの退陣が近いことを、ギリギリで予測してみせたということになるだろうか。もっとも、本書の場合、ゴルバチョフは3回にわたる暗殺計画を防ぐが、最終的には保守派の台頭に逆らい切れず、大統領ではいるものの、改革への意欲は失った傀儡になりさがるという結末になっている。正直なところ、92年に3巻もかけて文庫化する必要があったのかどうかよくわからないが、それだけ当時の落合が人気作家だったということだろうか。
スパイ小説としては、ロシアの人名が多数出てくる割りには読みやすい。ゴルバチョフに心酔する秘書官のソローキンを中心に、改革を歓迎して彼に協力する英米の諜報機関、改革を好まないソ連内部の保守派、そして彼らに弱みを握られ荊軻のような無謀な暗殺計画に身を投じようとする暗殺者たちなど、ワンパターンではあるが、ドライすぎもせず、ウェットすぎもせず、ストレスなく読める。ただ本当に、92年にさえ文庫化する意義があったのかどうかはよくわからないのだが……