DEEP FOREST/幻影の構成

読書記録。週2冊更新。A:とても面白い B:面白い or ふつう C:つまらない D:読むのが有害

真梨幸子『縄紋』B、ジョン・スミス『スカイトラップ』A

【最近読んだ本】

真梨幸子『縄紋』(幻冬舎、2020年)B

 イヤミスの名手として名高い作者による、400ページにおよぶ伝奇ホラーということなのだが、あまり楽しめなかった。伝奇小説というのは多分にロマンを楽しむものであり、一方で真梨幸子の本領であるイヤミスというのは、ロマンを破壊されるところにマゾヒスティックな快楽があると考えれば、どうにも食い合わせが悪くなる。

 本書では『縄紋黙示録』という自費出版小説の原稿と、その校正をすることになった男を中心に、その内容をめぐり巻き起こる事件を描いている。登場人物としては、主人公の家に強引にあがりこんで相棒のようになる男や、やたら説教臭く不安をあおる女医など、真梨幸子らしい嫌な人ばかりであるが、一方で『縄紋黙示録』の探究を通じて明かされる縄文時代の真実についてはみんなやたら素直に感心していて、どうにも鼻白む。変にスピリチュアルで自分語りの比重が多いところはいかにも自費出版物という感じでうまいのだが。あまりスピリチュアルな内容に登場人物が感心していると、作者がどの程度本気なのか不安になってしまうのは現代となっては避けられない。64年生まれの作者としては、スピリチュアルやニューエイジというものにそれなりな思い入れがあるのかもしれないが。

 終盤、『縄紋黙示録』から現在の話が中心になると、それまで伏線のように語られていた犯罪事件とリンクしてくる。殺人事件の犯人と目撃者の心理戦や、『縄紋黙示録』の内容と著者をめぐるカルト的な動きが背景に現れてきて、今まで読んできた構図が一変し、がぜん面白くなってきたところで、終わってしまう。そのあたりの盛り上げ方はさすがなのだが、面白くなるのがいかんせん遅すぎたと思う。連載中に読んでいたら迷走している感じがかなり強かったのではないか。

 

ジョン・スミス『スカイトラップ』(冬川亘訳、ハヤカワ文庫、1985年、原著1983年)A

 著者がジョン・スミスなどという検索のしにくい名前で、他の作品はなにがあるか苦労して調べてみたら、現在は「ジョン・テンプルトン・スミス」という名前で書いているらしい。それはそうだろうな。

 事故が原因で飛行恐怖症になったパイロットが、アフリカのマラウィで物資輸送の依頼を受ける、というあらすじを読んで、恐怖症との戦いと飛行のロマンがメインになるのかと思ったら、実際にどうにかして飛ぶまでが長い。どうも依頼に裏があると思った主人公は、物資の輸送を隠れ蓑にしてダイヤモンド密輸の片棒をかつがされていることに気づく多が、敵も嗅ぎまわられるのを嫌って、真相を隠すために次々に殺人事件が起こる。

 これが元恋人やその夫の大富豪など重要そうな人物があっさり殺されたり、有力な証人を捕まえたのに突然あらわれた豹に殺されたり、予想のつかないめまぐるしい展開で楽しめたのだが、解説を読むとこの辺が新人デビュー作らしい稚拙さと取られているようにも見える。出てくる者がみな小悪党という感じで、最後に明かされる黒幕もそんなに大物感がないが、個人的には悪くないと思う。

 ただ著者が現役パイロットであるせいか、その辺のディティールがすごくて、ダイヤの隠し場所など、それで本当に気づかれないものなのかよくわからない。訳者泣かせのようだったが、実際英語圏の人でもどれくらいわかるものなのか。