桐野夏生『顔に降りかかる雨』B、ディーン・R・クーンツ『ファントム(上・下)』B

【最近読んだ本】

桐野夏生『顔に降りかかる雨』(講談社文庫、1996年、単行本1993年)B

 桐野夏生としての実質的なデビュー作。実は桐野夏生自体がちゃんと読むのは初めてなのだが、それをもったいなかったと思うくらいの面白さはあった。もともとベテランであったとはいえ、第一作からこのレベルというのは、相当に話題になったのではないだろうか。

 女探偵・村野ミロが、依頼というよりは巻きこまれる形で、大金をもって失踪した友人を捜すことになる。その調査の過程で、ノンフィクション作家として派手な暮らしをしていた彼女の、見栄に満ちた裏の顔を知ることになる。

 二つの関係のない事件が偶然かさなったことで話が複雑になっていたという真相はありがちであるが、登場人物が裏社会を生きる大物だったり怪物的に自分本位だったりとそれぞれに印象的であり、意外に読みやすい。

 ただ、友人の夫との恋愛のくだりは必要だったのかどうか。こんな状況で恋心が芽生えるものかどうか、こういう展開を見るといつも疑問になるのだが、どんなものか。しかも少し調べてみると、これがシリーズの後の作品にも影響するようであるし。

 

ディーン・R・クーンツ『ファントム(上・下)』(大久保寛訳、ハヤカワ文庫、1988年、原著1983年)B

 かつてはスティーヴン・キングと並び称され、その後あま名前を見なくなったモダン・ホラーの第一人者の代表作である。読むと、なるほど当時話題になったのもわかる。最初は、ある町の住人がすべて、つい一時間前に一斉に消えてしまったり、変死体になって発見される事件が起こる、というホラーの定番のような導入で始まる。

 ここに偶然迷い込んだ姉妹の目を通して、謎につぐ謎を提示して恐怖を煽っておいたところで、現代の最新装備の軍隊が導入されて科学的な調査が始まるというのが面白い。分析の結果、残された液体が完全な純水だと驚いたり、変死体にまったく菌が繁殖していないと驚いたり、コンピュータのモニターを介して謎の存在と会話したり、最終的に化物を科学的な手段で打倒したりと、ともすれば笑ってしまうようなことを大真面目にやっていて、デスノートばりの実験的な作品になっている。ただまあ、やはりどうしてもあちこちで笑いがこみあげてくるのは確かで、発表当時に本当にそんなに怖かったのかどうかはよくわからない。

 なお、原書ではさらにあとがきがあって、この作品のせいで自分は「小説家」ではなく「ホラー作家」として認知されてしまった、という後悔を皮肉げに語っていて面白い。