赤川次郎『若草色のポシェット』B、松岡圭祐『カウンセラー』B

【最近読んだ本】

赤川次郎『若草色のポシェット』(光文社文庫、1988年)B

 1年に1冊刊行し、登場人物がそれとともに年を取っていくというコンセプトで、今年めでたく48歳となった主人公・杉原爽香の、記念すべき15歳の第一作である。

 15歳ながら、不登校ぎみだった親友の死の謎に挑む、かなりハードな話になっている。三毛猫ホームズシリーズも第一作が2作目以降に比べて暗い話だったが、なにか作者の考えがあるのかもしれない。

(以下ネタバレ)

 しかし文体のおかげか、主人公や新任教師たち、登場人物の明るさのたまものか、近親相姦やそのトラブルによる殺人、売春組織の暗躍などというショッキングな要素に比して読みやすい。いったいこの事件は後々まで引っ張るのか、それを忘れて次の年に行くのか少々気になるところだ。

 中島河太郎の解説は、その時点までの赤川次郎の代表作を紹介して、本作はラスト数行で触れるのみという変なものである。文庫書下ろしで読んでいなかったのではないかと疑わせる。

 

松岡圭祐『カウンセラー』(小学館文庫、2005年、単行本2003年)B

 臨床心理士・嵯峨敏也が主人公として活躍するシリーズの三作目にあたる。ちなみに嵯峨敏也は稲垣吾郎似であると設定されている。(『催眠』が稲垣吾郎主演で映画化されてからそういう描写になっている)ちなみに描写は以下。

 デザイナーズ・ブランドとおぼしき洒落たダークグレーのスーツを着こなした、細身で長身の男。年齢は三十をすぎているはずだが、それより何歳か若くみえる。長めの髪には軽くウェーブがかかり、色白で瘦せこけた顔に細く高い鼻がつんと澄ました印象をかもしだしている。舞台を見下ろす涼しい目。口はやや大きめだが唇は薄く、顎も小さい。総じて中性的な印象のある顔つきだが、ぶっきらぼうな態度はまさしく男性特有のものだ(pp.35-36)

 相手のささいな言動やしぐさから、内面や本人も気付いていない障害を的確に読み解き、助言を与える彼は、女性なら誰でもうっとりしてしまう存在で、ハーレクインの主人公のようである。

 対して本作の実質的な主人公は、音楽療法を取り入れた不登校児のケアなどで注目を集めるスクールカウンセラー・響野由佳里である。ピアノの演奏を聞いただけで、演奏者の心理や環境まで読み解き、的確な助言を与えるという、嵯峨敏也と張り合うほどの能力をもつ彼女は、ある日突然、見も知らぬ13歳の少年に気まぐれで家族4人を皆殺しにされてしまい、事件後のケアのために彼女を訪れた嵯峨と出会うことになる。

 心理学的な知識やニセ札など社会的な小ネタをからめながらストーリーをスムーズに進めていく手腕は今にいたるまで不変であるが、本作はそういう読みやすい軽やかさと、大した悪意ももたない少年による残虐な犯罪という事件の重さがつりあっていないように思える。

(以下ネタバレ)

 当然少年犯罪が話の焦点になるのかと思いきや、後半で響野由佳里は拳銃を手に入れ、突如として凶悪犯罪を犯した少年たちを「処刑」しはじめる。最初は純粋な復讐から、しだいに自ら裁きを与える快楽に溺れていく彼女は、嵯峨敏也の策略によって、自身の独善性と向き合うことになり、自首するに至る。彼女は、しかし嵯峨の協力により、精神病による行動とされ、罪は軽くなるらしい。

 初めて持った拳銃で20人近い少年を殺してなお、(警察の思惑もあるとはいえ)自首するまで逮捕されないというのはあまりに無理があり、まるで彼女が事件をきっかけに精神の世界に逃げ込んでいるようで現実味がない。そうすると嵯峨は彼女の精神世界に降りてきて現実世界に連れ戻したということになるのかもしれないが、実際は現実世界で少年を虐殺しているのである。

 その重さを、あまりに軽く、心理学的な分析で片づけていて、どうも受け入れがたかった。