桐野夏生『天使に見捨てられた夜』B、篠原健太『彼方のアストラ』(全5巻)A

【最近読んだ本】

桐野夏生『天使に見捨てられた夜』(講談社文庫、1997年、単行本1994年)B

 女探偵・村野ミロシリーズの第2作。AV撮影のレイプシーンが実は本物のレイプなのでは?という真偽の調査を、フェミニズム団体から依頼されたミロは、AVの画像というわずかな手がかりから撮影された女性を探索していく。その果てに、「男の欲望の犠牲になった女性」という単純な図式にはおさまらない、ひとりの女性の生きざまが浮かびあがってくる。「雨の化石」など強引な手がかりもあるものの、地道な調査を退屈させずに読ませる構成は相変わらず巧みである。

 一方で、それぞれの要素を見ると、AV撮影の裏事情という今回もアングラな話題に、なにか隠しているらしい依頼人、女性ゆえの差別、そしてかかわった男との必要性の疑問な濡れ場、近所のゲイたちとの交流、父による陰に陽にの手助け、被害者と加害者の構図の逆転……などなど、一作目との共通点が多く、それをひとつの物語としてうまくまとめてみせる手腕はすごいものの、同工異曲の印象もある。それに、これは「レイプもののAVの撮影が実は本物のレイプだったのでは?」というのが発端であるが、どうしてもニコラス・ケイジの『8mm』を思い出してしまうところもあり、あの冷酷な真相にくらべるとやはり見劣りする。 

 村野ミロシリーズは、このあと短編集・父を主人公とした外伝を経て、上下巻の『ダーク』で終わってしまうらしい。シリーズ化は難しいと判断したものか、ミロの父のキャラクターなど魅力的なだけにもったいない。

 

篠原健太『彼方のアストラ』(全5巻、ジャンプコミックスプラス、2016年~2017年)A

 面白い。9人の少年少女が宇宙を漂流するというスタンダードな設定であるが、生還するまでにたどる未知の惑星での胸躍る冒険、襲いくる危機に知恵で立ち向かう雑学的な面白さ、それを通してそれぞれのキャラクターが心を開いてチームとして団結していくという成長物語が組み合わさって、正統の冒険SFになっている。5巻でまとまっているのも良い。物語づくりの教科書のようである。ラストで明かされる真相も、ちゃんと伏線を張ったうえで見事に予想を外されてしまった。

 不満を言うなら、生還できると確定してからが順調すぎた気がする。敵のほうももう少し抵抗して、まだ他に黒幕がいたとか、彼らが帰ってくるのを察知して罠を仕掛けるとか、もう一波乱あるのではないかと思ったのだが、それでは蛇足になるという判断だろうか。