DEEP FOREST/幻影の構成

読書記録。週2冊更新。A:とても面白い B:面白い or ふつう C:つまらない D:読むのが有害

中島義道『非社交的社交性』B、貴志祐介『青の炎』B+

【最近読んだ本】

中島義道『非社交的社交性』(講談社現代新書、2013年)B

 まとまりのない本であると思ったら、主に全50回の新聞連載をまとめたものであるそうだ。内容は主に、著者が今まで出会ってきた非社交的な人の記録であり、また私塾の宣伝でもあり、自伝的な部分もある。

 これを読んだ人間は一体どう考えるのか。こんな変な人たちがいるのかと笑うのか、これは自分だと震えあがるのか。自分はどうしても、極端な例のなかにも自分に似通ったものを見つけてしまい、読んでいて気が気でなかった。叱ると納得せず延々と抗議のメールを送ってくる人とか、入塾希望メールに本文もなにもなくただ募集要項に求められているものを箇条書きにして送ってくる人とか、まあこのままではないが、しかしこれに近いことはしたような覚えもあり、向こうからはこういう目でみられていたのかもしれないと思うと背筋が冷たくなってしまう。

 一方で、中島義道自身は相対的に常識人として出てきて、若者に寿司を奢ったら中島義道をさしおいて勝手に注文しだしたので「こういうときは私が先に食べるまで待つものだ」と説教するなど、なかなか可笑しいものがある。もちろん彼らには彼らの言い分があるわけで、「彼らから見た中島義道」というものも是非読んでみたいものである。 

 

貴志祐介『青の炎』(角川文庫、1999年、単行本2002年)B+

 湘南の高校に通う17歳の少年が、愛する母と姉を守るために、離婚しても家に居座っている義父を完全犯罪で殺すことを計画する。

 異様に密度の濃い序盤から、犯罪の計画と実行、小さなほころびによる瓦解まで綿密に描かれており、トリックも、学生の得られる範囲の知識でうまく説明がつくし、国語の授業がそのまま少年の心情と響きあうなど、家族や友人たちの人間模様も物語と絡まりあいながら変化していき、犯罪も組み込んで青春小説として完結するラストまで、息もつかせず一気に読ませる。読み終えたあとは、あとがきでこのトリックは実際には成立しないという注意書きがあって、それで現実に引き戻される。あとがきも含めて、ひとつの作品となっているといって良い。

(以下ネタバレ)

 ただ読み終えてから考えてみると、やはり色々疑問はあって、末期がんなのにあの生活で少年に気取られずに済むものなのか(母が何も言えなかったのはもうすぐ死ぬのを知っていたからなのか?)とか、警察もああなると薄々わかっていただろうに彼を帰らせるものなのか(巻きこまれるトラックの運転手の立場はどうなるのか)とか、やはり彼の犯罪は時間が解決する「徒労」だったのではないか、など考えてしまう。

 解説の佐野洋は、倒叙ミステリの歴史に残る一作として高く評価しており、こういうジャンルには珍しく善人である主人公を置いて、なおかつ最後には犯罪が露見する不幸を読者が納得しなければならないという困難を両立させたと賞賛している。しかし少年は、最後まで純粋とはいえず、二つ目の殺人を決意するあたりは明らかに常軌を逸した精神状態になっていたように思う。この「異常性」を作者は誰にでもありえることと考えているのか、彼自身が固有に秘めたものと見ているのか、『黒い家』の作者だけに気になるところである。