DEEP FOREST/幻影の構成

読書記録。週2冊更新。A:とても面白い B:面白い or ふつう C:つまらない D:読むのが有害

野阿梓『五月ゲーム』B、倉知淳『ほうかご探偵隊』B

【最近読んだ本】

野阿梓『五月ゲーム』(ハヤカワ文庫、1992年)B

 銀河帝国打倒を目指す秘密結社・狂茶党(マッド・ティーパーティー)に属する若き美貌のテロリスト、レモン・トロツキーの闘いを描く冒険SF――なのだが、本作では目的地への移動中に別のテロリストのハイジャックに遭遇したり、壊滅した敵対組織の残した秘密を探ろうとしてそれをめぐる争いに巻きこまれたりと、直接銀河帝政と戦うようなものではない。なんとなくトラブルに巻きこまれ体質とみれば、王道のパターンと言えそうである。他もそうなのか、これが例外的なものなのかはわからないが。それでもレモンは持ち前の戦闘能力と冷徹な頭脳を武器に降りかかる災難に立ち向かう。

 収録作ふたつの内、ひとつめの「五月ゲーム」は、レモンが乗っていた宇宙旅客機がハイジャックされるが、犯人たちが降り立った星は折悪しくクーデターの真っ最中で要求を聞くどころではなく……というドタバタもので楽しめたが、もうひとつの「妖精の夏」は、野阿梓らしく神話的な世界と現実世界の混ざり合った幻想小説の趣で、あまりに雰囲気が違うので読むのに苦労した。カフカの『城』やシェイクスピアの『ハムレット』モチーフくらいはっきりしていればまだわかるが、注釈つきで読んでみたいものである。

 

倉知淳『ほうかご探偵隊』(創元推理文庫、2017年、単行本2004年)B

 かつて講談社ミステリーランドで出された子ども向けシリーズの一冊。小学5年生の少年少女が、描いた本人が興味を失った絵、作ったものの誰も使っていない募金箱、授業でもう使わないソプラノリコーダーのような「いらない物」が次々になくなるという奇妙な事件に、子どもらしい興味本位で探偵団を結成して挑む。

 ジュブナイルミステリらしく、子どもの発想の範囲内で推理を進めつつ、そこは倉知淳なので、あらゆる可能性を検討しては排除しながら「解決」にたどりつき、そこからは怒濤のどんで返しの連続。なくなった「どうでもよいもの」の中に「クラスのほとんどが気に留めていなかったニワトリ」がいることで、読者になにか不穏なものを感じさせて引っ張っていくのもうまい。読み終えてみるとちょっとできすぎな気もしないではないが、安心して読み終えることができた。