DEEP FOREST/幻影の構成

読書記録。週2冊更新。A:とても面白い B:面白い or ふつう C:つまらない D:読むのが有害

周木律『眼球堂の殺人』B、マシュー・メイザー『サイバーストーム 隔離都市(上・下)』B

【最近読んだ本】

周木律『眼球堂の殺人』(講談社文庫、2016年、単行本2013年)B

 新本格の王道である館もの。面白かったのだが、放浪の数学者という主人公にあまり魅力がなく、館も見た印象がなんだかスカスカな感じで、圧倒的な存在感というものがなく、ちょっと物足りない感じ。しかし怖いほどの読みやすさでどんどん進んでいけた。

 

マシュー・メイザー『サイバーストーム 隔離都市(上・下)』(林香織訳、ハヤカワ文庫、2018年)B

 ある日突然、全米のネットサーバーが大規模なサイバー攻撃を受け、次々にダウンする。コンピュータの制御に依存していた現代都市のインフラはあっという間に機能を喪失し、マンハッタンの住人たちは交通やガス、電気、水道を絶たれる。時はクリスマスを控えた12月23日、マンハッタンを記録的な大寒波が襲い、雪に埋まった都市で人々の生き残りを賭けた戦いが始まる。

 マンハッタンのマンションに住む主人公は、小さな子どもと妊娠した妻を抱え、友人や隣人たちと力を合わせて乗り切ろうとするが、飢餓と疫病、いつ終わるとも知れない都市機能の麻痺から、人々は暴徒化し、やがて殺し合いから人肉食にまで走る人間が出て来る。マンションで持ちこたえるのは限界と見た主人公たちは脱出してワシントンを目指すが、そこで見たのは中国軍に占拠されたらしき政府であった――

 特色としては、最初から最後まで庶民の目から描かれているということだろう。こういったテーマの小説として(寒波ではなく地球寒冷化だが)邦光史郎の『大氷結』や眉村卓福島正実の『飢餓列島』などが思い浮かぶが、これらは政府の立場から、俯瞰的な視点が語られていた。本作では、右往左往する人々からの視線しかないから、今まで書いたあらすじにも、状況をわかっていないがゆえの主人公の勘違いが含まれている。読者も主人公の目を通して世界を理解するしかないあたり、リアルである。

 こういう災害小説の読みどころは読んでいる間の閉塞感で、どこにいっても逃げ場のない、「もう飽きたからやめる」ということができない恐怖が募ってくる。ワシントンに向かった主人公が雪のないところに行きついたときは心底ほっとしたし、一方で主人公は暴徒に襲われたときに既に死んでいて、途中からすべて死にかけた彼の夢にすぎないのではないかという恐怖に囚われ続けていた。幸い、訳されてはいないものの続編もあるようで、とりあえず主人公たちは無事に生き延びたらしい。

 しかしこの小説、表紙はマンハッタンの夜景らしき写真なのだが、これは間違いだろう。雪に覆われた都市にすべきだったと思う。