DEEP FOREST/幻影の構成

読書記録。週2冊更新。A:とても面白い B:面白い or ふつう C:つまらない D:読むのが有害

島田雅彦『カオスの娘 シャーマン探偵ナルコ』B、野城亮『ハラサキ』B

【最近読んだ本】

島田雅彦『カオスの娘 シャーマン探偵ナルコ』(集英社、2007年)B

 シャーマンとしての力を持ち現代に生きる少年が、凶悪な犯罪の犠牲んになって、自身もまた凶悪な犯罪者となった少女を助けるべく、巨大な悪と自身の運命に立ち向かうスピリチュアル・ミステリー。

 正直なところ、島田雅彦が書いたということでもなければ注目もされなかっただろう。ラノベやミステリでよくみるような道具立てで、なんとなく中沢新一の影響を受けていそうなシャーマン論が展開され、一応テロをしたり風俗の話が出たりというところで政治や経済みたいなお話が入るあたりに、大江や石原に通じる文学っぽさが出ていないこともない。しかしそれほど頭に残るものでもない。続きもあるようだがどうしようか。

 しかしいつも、島田雅彦は小説の装丁がカッコいい。毎回期待してしまうのだ。

 

野城亮『ハラサキ』(角川ホラー文庫、年)B

 読んでみて驚いたのだが、妙にゲームっぽい。見知らぬ町に降り立った女性が、誰もいない町を探索し、死体や謎のメモなどを見つけ、怪異に襲われて逃げるうちに、少しずつ町にひそむ恐怖に近づいていく。別に小説にだってそういう話はないわけではないが、読んでいるとやはり、ゲームのほんの序盤、どういう性格のゲームかもわからないまま、手探りで周囲を探索していく様を、文章で見せられている気がしてならなかった。実際、アマゾンレビューで見ても「『サイレントヒル』っぽい」という感想が多く、まあ誰もが考えることのようだ。

 話は、幸せな結婚を前にした女性が、自身の暗い過去を乗り越えていこうとする物語、と言えるだろうが、ホラー小説大賞読者賞を受賞しただけあって、読み手を引っ張っていく謎をが散りばめてあって楽しめる。主人公が記憶喪失で、乗り越えるべき過去がなんなのか思い出せないという設定は、読者と同じ立場に置くための仕掛けと見せかけて、明かされる真相にそれなりにかかわってもいる。最後に、順当に終わると見せかけてひっくり返されるところも良い。

 作者も書きたいものは書き尽くしてしまったのか、これ一作で沈黙したようである。