【最近読んだ本】
オスマン帝国のもとで史上空前の繁栄を謳歌しながら、宗教の制約による西洋の近代化に遅れをとり、列強の蚕食を受けそうなところを、軍事・政治両方の才能によりトルコ国民を率いて独立を勝ち取ったケマル・パシャ――アタチュルク(トルコの父)の伝記。
とにかくケマル・パシャへの愛が溢れる伝記である。全編べた褒めで、しかしそれだけのスケールがケマル・パシャにあるのは確かなのでそれほど気にはならない。
むしろ比較として出て来る明治維新の話や語り口にあからさまな司馬遼太郎好きが伝わってくるのが好みが分かれるかもしれない。
複雑なトルコ情勢がちゃんと頭に入ってくるのはたいしたもので、関係する本を色々読みたくなった。とりあえず山内昌之によるケマル・パシャのライバル・エンヴェルの伝記を読んでみたいと思う。
アンナ・クラーク『ルースをさがして』(高橋豊訳、ハヤカワ文庫、1990年、原著1975年)B
訳されたのは90年だが書かれたのは75年ということで、おそろしくスタンダードなサイコミステリーである。
毎晩見る謎の悪夢、失われた記憶、行方不明の両親、なにか知っているらしい親戚、意地悪な友人たち、真相を知ろうとすることへの妨害、助けをさしのべてくれるただ一人の存在との恋愛――などなど、ゴシック小説の要素をてんこもりにした感がある。
ここで必要になってくるのがフロイト的なトラウマや過去の記憶の想起といったネタにどの程度入りこめるかであって、そこに白けてしまうとのめりこむのは難しい。
ただ、何もわかっていない状態の主人公の視点に徹底して固定して描いている分、その彷徨を追体験できるのは割と良かった。