陳舜臣『インド三国志』B+、石持浅海『人面屋敷の惨劇』B
【最近読んだ本】
陳舜臣『インド三国志』(講談社文庫、1998年、単行本1984年)B+
ムガル帝国最大の版図を築きながら、同時に帝国の衰退の原因もつくったアウラングゼーブ帝を中心に、マラーター族を率いて生涯ムガル帝国を苦しめた英雄シヴァージー、インドを狙う東インド会社の三つ巴の戦いを描く。
おどろくほどに田中芳樹っぽい。アウラングゼーブを主人公に置きながらストレートには褒めずなんだか屈折した評価をしたり、嫉妬や吝嗇など小市民的な感情が時に大局を動かしていったり、ちょくちょく俯瞰的な、後世の歴史家としての視点が語られる。ただ田中芳樹とちがうのは、魅力的なキャラが全然いない。アウラングゼーブは狂信的なイスラム信徒であるがゆえに、積極的な攻勢に出て帝国を発展させるとともに、その狂信性から作らなくても良い敵を作って帝国を疲弊させていった。
皇帝になるために父が危篤になるやいちはやく兄弟を滅ぼし、父が回復すると死ぬまで幽閉するなどだいぶひどい人間で、正直なところ面白いのだがだいぶ読むのがつらいところもあった。
一応続編の構想もあったようだが、結局書かれなかったようだ。書かれたら日本では珍しいインド史の一大大河小説になっただろう。
肉親が謎の失踪を遂げたという人々が、怪しいと目されながら何年も放置されている男の屋敷に乗りこんでいく。被害者の会の人々はうまく屋敷に入ることに成功するが、次々と予想もしない出来事が彼らを襲い――と、読みやすいし面白いのだが、手際が良すぎて停滞するということがなく、論理的に過不足がないあまりにかえってこれで良いのか? と思ってしまう。無駄な会話や寄り道というのが小説でいかに重要かということを、石持浅海の小説を読むといつも考えてしまう。実際にあるとそれはそれで文句を言うのだろうが。
とはいえ面白いし、最後少し良い話風に終わるのも、だまされた感じながら読後感としては悪くない。