DEEP FOREST/幻影の構成

読書記録。週2冊更新。A:とても面白い B:面白い or ふつう C:つまらない D:読むのが有害

雑喉潤『三国志と日本人』B、片岡義男『スローなブギにしてくれ』B+

【最近読んだ本】

雑喉潤『三国志と日本人』(講談社現代新書、2002年)B

 日本における三国志の受容を紹介した本。太平記八犬伝への三国志の引用、吉川英治版における史実と創作の比較などを紹介してなかなか面白いが、読んでいるとただネタを並べて見せているだけな感じにはなってくる。

 あと、花田清輝(1909-1974)が大好きらしいということはわかった。花田清輝のところだけやたら饒舌になるのだ。花田清輝など、いまの我々にはいまいちすごさがわからないが、やはり同時代の人(著者は1929年生)には相当なスターだったのだろう。森毅(1928-2010)も『いきあたりばったり文学談義』などでかなり語っていたし。

 一方で、漫画にはほとんど興味がないらしいのもわかった。蒼天航路などひとこと触れるだけであるし。まあ年齢的には仕方ないのかもしれない。

 なぜ、他の時代に比較して三国志がこんなにも人気があるのかとか、吉川英治による三国志イメージの不可逆なまでの変容とか、色々気になるところはあったのだがそのあたりの考察はない。

 

片岡義男『スローなブギにしてくれ』(角川文庫、1979年)B+

 片岡義男を初めて読んだのだが、意外に面白い。

 無駄のない文体で、人物の背景も最低限しか説明しないせいで、昭和の日本という感覚はうすい。どこか時間から切り離されたところで繰り広げられているような、寓話の一歩手前のような感じの読みごこちである。

 表題作は、高速道路でネコと一緒に捨てられた少女を拾った少年が、その女性と同棲を始める話である。その少女はネコ好きで次々に子ネコを拾ってくるのだが、一向に世話をする気配はなく、怒った少年はあるときドライブの帰り、車の窓から次々にネコを捨ててしまう。悲しんだ少女は姿を消し、少年はバーで飲んだくれるが、彼女は帰ってきて、お祝いをしようというバーテンダーに「スローなブギにしてくれ」と言う……

 正直、作品のメッセージは何かとか、ネコがかわいそうではないかとか、なんでスローなブギなんだとか、さっぱりわからないのだが、ただ起こったことが並べられていく感覚は新鮮ではある。解説の三浦浩はハードボイルドとして評価しながら、それよりは散文詩が近いかもしれない、と形容していたがそうかもしれない。

 他の作品も色々読んでみたくなった。