【最近読んだ本】
早川いくを『態度がデカイ総理大臣-吉田さんとその時代』(バジリコ、2010年)B
吉田茂の伝記。
吉田茂といえば戸川猪佐武の『小説吉田茂』のような名著があるのに、この上なにを加えようとしたのかというと、それがよくわからない。
戸川の『小説吉田茂』は戦後日本の復興に吉田茂が果たした役割を描く以上に、権力に興味のなかった男が次第に総理という座に取り憑かれていくドラマに読み応えがあった。
本書もそういうものがないわけではないのだが、吉田の周辺――徳田球一など周囲の人間を並行して描いたり、戦後の日本社会を当時の新聞記事などから詳しく描いたり(当時のコントネタが披露されているとか、ここは著者の得意とするところだろう)といったところにも力が入ったせいで、ややつかみどころのないものになってしまっている。偏屈で知られる吉田茂の数々のエピソードも、今ではたいがいWikipediaに載ってしまって新鮮さがないのもつらいところだ。
なぜ『へんな生きもの』などで有名な早川いくをがこのような畑違いとも思える分野に手を出したのか、ぜひあとがきで語ってもらいたいものだと思ったが、この本にはあとがきがない。早川はその後この種類の著作は手がけていないようだし、謎である。
ただ、最後に吉田茂の邸宅が2009年に漏電による失火で全焼したと記されているところは、古い伝記にはかけない寂しさを残す。
――と思ったら、その後の2017年に再建されていたらしい。
孫の麻生太郎がスピーチをしているが、彼の毒舌が、ここでは良い方向に働いている。
「旧吉田茂邸再建、孫の麻生太郎財務相は反対だった…「全然意味がありませんからお止めになったら」」
https://www.sankei.com/article/20170326-BW66AOMLRVOIVAUNJ2H3DEJ5WI/
なめたけ『スーパーノヴァはキスの前に①』(LINEコミックス、2020年)B
臆面もなく、涼宮ハルヒ的設定の再構築という感じである。
おそらく精神的に不安定になると時空を破壊して「スーパーノヴァ」を起こす少女がいて、それを回避する方法は彼女が恋人とキスをすること――というわけで、遠い未来から来たひとりの男が彼女の恋人となり、自分の時空を救うべく奮闘する。朝比奈みくるポジションに古泉がいる感じか。
少女――「センパイ」はムードのない恋愛は嫌いらしく、なかなか気に入るシチュエーションに至れず何度も時空の崩壊を繰り返すことになる。それまでの青春コメディを楽しむもよし、「センパイ」は何者なのかという謎を考えるもよし、というところか。
何も考えていなさそうで何を考えているのかよくわからないセンパイ、彼女をどう思っているのか正直よくわからない主人公と、先が気になるだけの力はもっているのだが、他の巻が家のどこにあるのかよくわからないので、多分読めるのはだいぶ先。