DEEP FOREST/幻影の構成

読書記録。週2冊更新。A:とても面白い B:面白い or ふつう C:つまらない D:読むのが有害

若木未生『われ清盛にあらず』B、デイヴィッド・ファインタック『銀河の荒鷲シーフォート 大いなる旅立ち(上・下)』B+

【最近読んだ本】

若木未生『われ清盛にあらず』(祥伝社、2020年)B

 アニメ『平家物語』は、源平合戦のなかで消えていった平氏の若者たちを、もう一度浮かび上がらせた。多くの物語で、清盛や頼朝たちの戦いのなかで右往左往するだけだった若者たちが、それぞれの志をもち、生きようとしていたことを、見るものに思い知らせたのだ。平氏政権が存続していれば、そうでなくても彼らが生きていれば、いったいどんな成果をこの世に残したか考えてしまうが、源平合戦はそれを暴力的に押し流してしまった。戦争はおおきな流れとして個人の夢などやすやすと呑み込んでしまう。

 若木未生の『われ清盛にあらず』は、平清盛の弟で、ナンバーツーの地位にありながら、決して兄に逆らわず、清盛死後は一門の都落ちから離れ、平氏滅亡後も生き延びた、平頼盛が主人公である。ビジュアルイメージとしては大河ドラマの『平清盛』が合いそうな感じで、保元の乱平治の乱あたりが手際よく語られていく。

 清盛と頼盛の関係に影を投げかけるのは、清盛と並びたち平氏棟梁の地位を望む位置にあった平家盛で、私生児の噂のある清盛と異なり間違いなく直系である彼が若くして謎の死を遂げたことから、清盛と頼盛の二人は、自分たちが彼を死なせたのではないか、彼が生きていればもっと違う未来がありえたのではないかという責を背負っていくことになる。それは頼朝が家盛に似ている(と他人に言われた)からという理由で助命したことで、彼らのみならず一族の運命を決定づけていくことになる。

 やや感傷的な文体ではあるが、源平合戦の裏面史として平家盛・頼盛に光を当てている点は面白い。家盛が内省的な人物で、兄弟仲良くすることを望みながらも家督も諦めきれないという複雑な心情を吐露するなど、若木未生らしい繊細な心理描写も良い。

 

デイヴィッド・ファインタック『銀河の荒鷲シーフォート 大いなる旅立ち(上・下)』(野田昌宏訳、ハヤカワ文庫、1996年)B+

 おもしろかったのだが、あまり積極的には認めたくない。

 それはこういう「体育会系のしごき」に拒否反応があるからなのだろう。ある種の人には、懐かしいものなのかもしれない。

 お話はスタンダードともいえる。遠い植民星をめざす宇宙船に乗り込む若き士官候補生シーフォートが、思わぬトラブルで上官が全滅したことによって、臨時の艦長として船を統率することになる。思えば機動戦士ガンダム佐藤大輔征途など、こういうパターンはいろいろ思いつくが、海外にもちゃんとあるということだ。で、若き士官候補生は、にわか艦長となってなんとか宇宙船の人々を統率しようとする。その苦労が延々と描かれる。おそらく実際の軍隊をモデルにしているのだろうが、上官には絶対服従、どれだけ理不尽な命令にも従い、従いますと宣誓しても信じてもらえずに無意味なトレーニングや掃除作業をいいというまで休みなくやらされるのである。

 もちろんそれだけでなく、なぜ上官がことごとく死んだのか、植民星で彼らを待ち受けるのは何なのかなど見せ場はあるのだが、しかし印象に残るのは異常なまでのしごきだろう。

 しかしこの話がすごいのは、開始時点で主人公は17歳なのである。日本でいえば高校2年、少年とも青年ともつかない年齢である。それが、オトナたちの中にあって、艦長として権力をふるう。なめられないために、一度死刑判決を下したら決して覆さずに死刑にしなければならない。普通に考えて、高校生がお前は死刑だと判決を下してほんとうにそうしたら、気が狂ったと思う以前に誰も耳を貸さないと思うのだが、軍隊という組織はそれを可能にするのである。

 本来はこういうものは嫌いなはずなのだが……そういって切り捨てきれないものがこの作品にはあった。

 しかしこの作品、異様に誤植が多い。下巻に入ってから目についただけでも、「かれの眼は期待と興奮に眼は輝いていた」(p.145)とか、「きみはあくまり質問をしすぎるぞ」(p.187)とか、「ニュ―ヨ―ク」(p.207:―がダッシュになっている)など、5か所以上ある。どうやら他の巻はもっとひどくなるらしく、なぜこんなことになったのか。