DEEP FOREST/幻影の構成

読書記録。週2冊更新。A:とても面白い B:面白い or ふつう C:つまらない D:読むのが有害

白河三兎『もしもし、還る』B、霞流一『災転』B

【最近読んだ本】

白河三兎『もしもし、還る』(集英社文庫、2013年)B

 ある青年がふとめざめると、砂漠のどまんなかにいた。ここはどこなのか、なぜこんなところにいるのか途方に暮れていると、空から電話ボックスが降ってくる。その電話は、試行錯誤の末に、海を漂うボートの上で目覚めたひとりの女性につながる。彼らはなんとかこの状況から抜け出そうとして、ここにくるまでのことを思い出していく。

 安部公房とか眉村卓とか、こういう不条理な始まりの話は昔は好きでよく読んだので、むしろ懐かしい気分で読みだしたが、確かに面白かったけどああいうのとはちょっと違う。

 昔の、おそらく実存主義的な文学の影響下で生まれたのであろう不条理小説群というのは、主人公はほぼ無個性である。星新一のエヌ氏のごとく、誰でも代入できそうな記号にすぎない人間が(そういう考え方は日本の男性中心の傲慢な見方とも言われそうだが、中学生の頃の自分でさえ、なんだか知らないが自分とは似ても似つかぬサラリーマンたちの不条理劇に「これは自分自身でもある」という感想をもったのだ)、なんとも説明のつかない事象に遭遇して、現実や自我の不確実性に直面していく。それは人生のある時期には救いでもあったのだ。

 本書はそういうものとは一線を画していて、主人公はこの人にしかできない。セックスフレンドな関係の女性がいたり、気の合わない上司がいたり、なにかわだかまりのある親や姉がいたり、そういうことが、砂漠のパートと回想のパートを交互にくりかえすことで明らかになっていく。

 その過程は確かにおもしろいのだけれど、自分が求めていたものとはちょっと違っていたのだった。

 

霞流一『災転』(角川ホラー文庫、2010年)B

 タイトルは「サイコロ」と読むのが気に入った。墓石がゴムのかたまりみたいにぐにゃりと曲がるという、奇妙な事件に始まるというので、これも不条理小説を期待して読みだしたが、ヤクザっぽい人たちが入れ替わり立ち代わり現れて、暴力でもってこの怪現象をどうにか理解のできるものに押し込めようとしてくる。ちょっと頭の悪い、あまり楽しくないどつきあいが続くので、はずれたかなと思ったが、だんだん彼らを翻弄するバケモノが見えてくると、面白くなっていく。

 カイジに出て来た金持ちがアブノーマルな見世物を楽しんでいるような、そんな舞台設定の中で、次々に異常性癖やそれに犠牲になった人々の物語が繰り出され、あくまでホラーの文脈ですべての現象が説明されて急にスケールの大きなオチがつく。

 いきなり人類が滅びるみたいな大風呂敷をひろげて終るのはあまり好きではないが、読んでいる間は予測不能なエログロ展開を楽しめる。