DEEP FOREST/幻影の構成

読書記録。週2冊更新。A:とても面白い B:面白い or ふつう C:つまらない D:読むのが有害

北見崇史『出航』B、鷲宮だいじん『東京×異世界戦争』B

【最近読んだ本】

北見崇史『出航』(角川書店、2019年)B

 ある日突然家出した母を追って、母が向かった北海道の漁師町を訪れた青年。しかし彼がそこで見たのは、死んだはずの生き物が奇怪な化け物になって徘徊する奇怪な光景だった。そして青年はやがて、死者を蘇生させる秘密をもつ謎の書「根腐れ蜜柑」と、それにかかわる母の過去を知ることになる。

 クトゥルーであり、ネクロノミコンである――というのは、帯の内容紹介でだいたいわかってしまうのは良いのだろうか。小林泰三直系の執拗なまでのグロ描写が売りではあるが、それほど生理的に迫ってくるものはない気がする。

 別にクトゥルーの神々が出てくるわけではなく、それが残した本による死者の蘇生技術のみをめぐって人々が争うというのは、まあなんというかラヴクラフトとはまったく指向性の違う話ではある。

 タイトルどおり、最後は「出航」して終わる。最初から最後まで右往左往するだけのさんざんなお話だったのに、妙に前向きな印象をあたえる結末であった。

 

鷲宮だいじん『東京×異世界戦争』(電撃文庫、2019年)B

 東京都江東区有明に突然異世界へのゲートが開き、中からファンタジー世界の敵キャラのような化け物が次々に出てくる。街が破壊され、次々に人が殺される中、助け合って立ち向かう人々を描く。若き自衛隊員と反抗期の娘が主人公で、国家レベルの右往左往と、わが身を犠牲にしてでも他人を助けようとする無力なはずの人々の矜持、そして親子の絆が描かれる。

 シン・ゴジラを経たモンスター・パニック小説という感じである。視点が多いわりに話がわかりやすいし、1巻でまとまりも良い。

 ただ致命的なのは現れてくる怪物たちにまったく迫力がないことである。あとがきで150ページくらい削ったことが書かれているが、その部分に怪物側の描写があったのではないか。

 個人的には、ラノベのレーベルよりも一般文芸で出したほうが良かったのではないかと思う。できれば削除部分も復元した完全版を読んでみたい。