DEEP FOREST/幻影の構成

読書記録。週2冊更新。A:とても面白い B:面白い or ふつう C:つまらない D:読むのが有害

池波正太郎『まぼろしの城』B-、山田正紀『襲撃のメロディ』B+

【最近読んだ本】

池波正太郎まぼろしの城』(講談社文庫、1983年、単行本1972年)B-

 戦国時代に関東と信濃・越後両国を結ぶ要衝の地・沼田を支配した沼田万鬼斎と、その一族の興亡を描く。

 とにかく冒頭から最後までイヤな話が続く。とある娘との結婚を控えた善良な若者が、冒頭であっさり殺される。犯人は娘の父・金子新左衛門で、彼は娘を沼田万鬼斎に嫁がせるために、娘の恋人を殺したのである。その罪は最後までバレない。彼の陰謀はその後もつづき、沼田一族に自分の血統を食い込ませるべく、正統な嫡子を死に追いやるなど陰険な手が次々に繰り出される。

 しかしそういった動きの外で、信長の台頭に始まる変革の嵐が戦国の世を席巻し、その波にいやおうなく押し流されていく。裏表紙に「沼田万鬼斎とその一族の凄絶な滅亡を描いた戦国雄篇」とネタバレされているとおり、最後は万鬼斎の一族はみんな滅び、彼らが支配権を巡り争った沼田は武田勝頼の差し向けた真田昌幸に飲み込まれ、物語は池波正太郎の代表作たる『真田太平記』へとつながっていくことになる。ちなみに井上靖の『戦国軍記』には、このあと沼田城を任された海野能登守が主人公の短編が入っている。これも沼田城を中心にみた続編といえなくもない。そういう枝編的なものであるためか、最初から最後まで冷たいほどに救いがない。善人は悪人に利用されて死に、悪人は小競り合いの末に、もっと大きな悪に滅ぼされる。カタルシスはない。

 池波正太郎だけあって、小説としてうまいのはわかるのだが、とてもではないが面白くはなかった。

 

山田正紀『襲撃のメロディ』(ハヤカワ文庫、1976年)B+

 巨大コンピュータに管理されようとしている社会と、それに反抗しようとする人々の物語。書かれた順番でいうと、山田正紀の最初の作品であるらしい。

 全編に異様な緊張感がみなぎっている。学生運動を背景としており、個人の戦いが社会を変えられるかもしれないという希望がまだあった時代の気分もあるだろうか。

 アクションもあり、理屈っぽい話もあり、推理もあり、しかも短めという贅沢なお話で、巨大ななにかに押しつぶされていく人々のあがきというのは半村良などにも通じるものである。