DEEP FOREST/幻影の構成

読書記録。週2冊更新。A:とても面白い B:面白い or ふつう C:つまらない D:読むのが有害

平岩弓枝『千姫様』B、スティーグ・ラーソン『ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女(上・下)』B+

【最近読んだ本】

平岩弓枝千姫様』(角川文庫、1992年、単行本1990年)B

 千姫大阪城脱出から始まり、18歳のそのときから、70歳で人生を終えるまでの生涯を描く。

 伊東昌輝の解説にあるように、悪女的な伝承の多い千姫を、史実寄りに描いている。一方で、豊臣秀頼が南の島に脱出して生き延びたという伝説も組み込み、伝奇的な側面ももつ。ベテラン作家の職人芸というところである。

 とくに印象にのこるのは、千姫の脱出に貢献した速水甲斐守の娘であり、千姫の側で仕えることになった三帆である。千姫の夫を千姫よりも前に好きになってのちには通じあってしまったり、実は生きていた速水甲斐守と千姫との板挟みになったりと気苦労が絶えず、しかし千姫は鈍感なほどの純粋さでなかなか気づかない。本当の主人公はこちらと考えれば、急に通俗な恋愛小説のようになってしまうが、伝奇的な意匠の数々はやはりうまい。

 家光が千姫を姉と慕う素直な少年のように描かれたり、春日局が妙に卑小に描かれたりと、普通の描かれ方とはずいぶん違うのも魅力である。

 

スティーグ・ラーソン『ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女(上・下)』(ヘレンハルメ美穂・岩澤雅利訳、ハヤカワ文庫、2011年、原著2005年)B+

 タイトルや表紙からなんとなく恋愛ものかと思っていたら、北上次郎大森望がミステリとして絶賛していたため読んでみた。なんでも十部作くらいの構想で書き始めたが、3巻まで書き終えて出版しようというところで作者が急死、死後刊行された作品はみごと世界的なベストセラーとなったが、4巻以降の原稿はHDDに眠っているため(法的に)手が出せず、別の人が6巻まで書いてこれもベストセラーになった――という、作品自体が波乱万丈である。

 推薦を見ると一ページ目から引き込まれるようなことを言っているが、読み始めは地味である。『ミレニアム』という雑誌の編集長ミカエルが、ある大物政治家についてのスクープを名誉棄損で訴えられ敗訴、すべてを失う。失意の彼に、ある大富豪が接触してきて、その大物政治家を陥れるネタを提供するかわりに、40年前に起こった孫娘の失踪事件を解決してほしいという。

 この地道な捜査が意外に読ませるのだが、そこにかかわってくるのが背中にドラゴンのタトゥーをいれた謎の女性リスベット・サランデル。社会生活が壊滅的でコミュニケーションもうまくとれない一方で洞察力とハッカー技術による驚異的な調査能力を持つ彼女は、偶然のはたらきでミカエルの助手となって事件を探っていくことになる。

 二人が合流して真相が明かされていく過程はほんとうにスリリングなのだが、正直ミカエルにはサランデルがあんなに入れ込むほどの魅力は感じられないのが瑕である。それくらいサランデルには孤高の天才でいてほしかったという気持ちがある。

 2巻以降でどんな風に変わっていくのか期待したい。