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渡辺淳一の『光と影』を読んだ。
西南戦争で腕に重傷を負った二人の若者が主人公。医者の気まぐれで一人は腕を切り落とし、もう一人は実験のために腕を残して療養することになる。
腕を切り落とした男・小武敬介はすぐに回復して退院するが、身体障害者とみなされて軍には戻れず、閑職に追いやられる。
一方腕を残した男は長く苦しい療養生活の末、障害は残ったものの部隊に復帰し、自由に動かない腕を戦争の勲章として讃えられる。彼こそがのちの総理大臣寺内正毅であった。
小武はそれを羨望とともに見せつけられるしかない。元々成績は小武の方がよかったのに、腕一本の違いで無視されてしまう理不尽を彼は噛み締めながら生きることとなる――
偶然がもとで対照的な道を歩むことになった二人の男の人生を、実在の人物に取材して描いた直木賞受賞作。
不運な寺内と幸運な小武という構図が逆転し、かたや総理大臣、かたや最後にはコンプレックスに耐え切れず精神病院で狂死という極端なまでに単純な対比構成なので、序盤で展開の予想はつくし、徹頭徹尾その通りに進んでいく。二人の人生を分けるいくつかの「運命の悪戯」(たとえば二人の手術の方向性を決めたのは、二人のカルテの置かれていた順番にすぎなかった、とか)も、少々やりすぎなくらいにわかりやすい。
ひどく教科書的な、ストーリー作りのお手本のような作品であるが、現在の直木賞作品であればもう少しひねりが欲しいところではなかろうか。
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