DEEP FOREST/幻影の構成

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 秋山香乃『晋作 蒼き烈日』を読んだ。
 作者について調べてみたら文芸社でデビューしていて、恐らく自費出版からの出発だったと思われるが、その後は文藝春秋など大手でも作品を出しており、成功した部類と言える。
 本作はタイトルを見て分かるとおり高杉晋作が主人公。特に吉田松陰の死(1859年)から禁門の変1864年)までの5年間が中心になっている。松下村塾から出発して、久坂玄瑞吉田稔麿など同門の友人たちとともに国を変えるべく戦いを挑む晋作の姿が描かれる。珍しいのは、晋作が久坂たちに劣等感を抱く血気盛んな普通の若者として描かれていることだろう。それぞれがそれぞれの思想を持って行動を起こす中、たいした意見を持たない晋作は、持ち前のまっすぐさのみを武器に無鉄砲に混乱の渦中へ飛びこんでいく。禁門の変以後の晋作の活躍は、彼個人の資質というより、それまでに死んでいった多くの仲間たちの遺志を受け継いだための勇気として描かれている。だが晋作もまた病魔に倒れて若い命を散らす。その志を受け継いでいったものは果たしていたのかどうか。
 高杉晋作を描いた小説に見られるような疾走感や革命家の危険な雰囲気には欠けるものの、明治維新を見ることなく死んでいった、他の小説では一行書かれるか書かれないかの地味な者たちに光を当てて、爽快な(やや現代的な)青春群像として描いている。彼らは限られた描写から逆に熱狂的なファンを持っている場合もあり、この小説はそういった人たちの需要に応えたファンブック的な小説といえるだろう。学術的な研究書と違い気楽に読むことが出来るが、史実はしっかり押さえて描いているため、貴重な存在といえるのかもしれない。

晋作 蒼き烈日

晋作 蒼き烈日