DEEP FOREST/幻影の構成

読書記録。週2冊更新。A:とても面白い B:面白い or ふつう C:つまらない D:読むのが有害

山田正紀『アフロディーテ』B+、赤川次郎『静かなる良人』B+

【最近読んだ本】

山田正紀アフロディーテ』(講談社文庫、1987年、単行本1980年)B+

 ある建築家の思想にもとづきつくられた、海上の理想都市アフロディーテ。その栄枯盛衰の歴史を描くという点では、正直おもしろくもなんともない。それが、アフロディーテに夢を託して移住した若者の、18歳から30歳までの物語に重ね合わされることで一変する。個人の青春とその終焉の物語が、文明の行く末とオーバーラップする大河小説になるのだ。比較的短めなこともあり、一編の青春の叙事詩を読んだ気分である。

 

赤川次郎『静かなる良人』(中公文庫、1985年、単行本1983年)B+

 浮気をしていた妻が家に戻ると夫が血まみれで倒れており、知らない女性の名前をつぶやいて息絶えた。彼女は夫殺しの嫌疑をかけられ、世間の冷たい眼にさらされながらも真相を追う。その中で彼女は、真面目な面白味のない人間だと思っていた夫の、思いがけない「裏の顔」を知ることになる……

 いくらでも暗くなりそうな話だが、あまり深刻にならずにすんなり読めるところはさすが赤川次郎である。怒りに我を忘れることもあれば、どうしようもない事態に自棄になってしまうこともあるのだが、すぐに立ち直って行動に移っていく。80年代のヒロイン像としてはかなり斬新だったのではないだろうか。

 夫が死んだことで知らなかった彼の一面を知り、初めて彼のことを好きになっていくというのは哀しいことであるが、大事な彼を失った周りの人々が、よくもわるくもそれぞれの人生を歩み出すことを過不足なく描き出して、赤川作品の中でも完成度の高い長編であると思う。

 しかし、このタイトルはショーロホフの『静かなるドン』に掛けているのだろうか?