読書
【最近読んだ本】 奥泉光『葦と百合』(集英社文庫、1999年、単行本1991年)B+ 現代文学の第一線で活躍し続けている奥泉光の、長編小説としては第一作に当たる。前半はミステリの外見を持ち、後半ではメタフィクション的な手法を用いて虚実を曖昧にし、虚構…
【最近読んだ本】 大沢在昌『ダブル・トラップ』(集英社文庫、1991年、単行本1981年)B 大沢在昌の第二長編であり最初期の作品である。かつて政府機関の凄腕スパイとして知られ、あるトラブルで組織を追放された男が、ともに組織を追われた友人の頼みで再び…
【最近読んだ本】 山田正紀『アフロディーテ』(講談社文庫、1987年、単行本1980年)B+ ある建築家の思想にもとづきつくられた、海上の理想都市アフロディーテ。その栄枯盛衰の歴史を描くという点では、正直おもしろくもなんともない。それが、アフロディー…
【最近読んだ本】 山田正紀『謀殺のチェス・ゲーム』(ハルキ文庫、1999年、単行本1976年)A 人をゲームに見立てたタイプの物語はなんとなく食傷していたので読んでいなかったが、これは面白かった。何者かに奪われた自衛隊の最新型哨戒飛行機の行方を突き止…
【最近読んだ本】 アンダースン&ビースン『無限アセンブラ』(内田昌之訳、ハヤカワ文庫、1995年、原著1993年)B- ナノテクSFの代表作――だったと思ったのだが、読んでみたらそうでもない。月面で謎の死亡事件が相次ぎ、それがナノマシンの仕業だったと判明…
【最近読んだ本】 乙一『平面いぬ。』(集英社文庫、2003年、単行本2000年)B+ 乙一は、『夏と花火と私の死体』で衝撃を受けたあと、『GOTH』と『ZOO』がちょっと微妙で長いこと離れていたのだが、これは面白かった。乙一は語り口が最初から最後まで淡々とし…
【最近読んだ本】 江崎俊平『神変天狗剣』(春陽文庫、1983年)B+ 江崎俊平は春陽文庫でたくさん書いている作家として知っていたが、読むのは初めてである。読んでみたら、200ページ程度ですぐ読めるし、話もわかりやすい。 主人公は白い頭巾に白装束の凄腕…
【最近読んだ本】 安生正『ゼロの迎撃』(宝島社文庫、2015年、単行本2014年)B+ 『生存者ゼロ』の続編ではあるが、ほとんど関係はないし、前作のようなどんでん返しもない、スタンダードな軍事アクションである。有効な対策を打てない政府の右往左往が描か…
【最近読んだ本】 下川博『弩』(講談社、2009年)B+ 買ったのはだいぶ前だったのをさっと読めるかと思って気まぐれで手に取ったら、これが意外におもしろかった。 思うにこれは宣伝がよくない。タイトルの「弩」は確かにこの小説でガトリング砲なみの威力を…
【最近読んだ本】 島田荘司『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』(集英社文庫、1987年、単行本1984年)B+ シャーロック・ホームズはコカイン中毒の妄想患者に過ぎず、医師のワトソンが彼をうまくフォローして事件を解決してやり、すべてホームズの手柄として小説化…
【最近読んだ本】 乾緑郎『完全なる首長竜の日』(宝島社文庫、2012年、単行本2011年)B+ 植物状態になった患者の意識と対話することができる機械がある世界で、ある少女漫画家が、意識不明の弟の自殺未遂の真相を探ろうとする。しかし現実と区別のつかない…
【最近読んだ本】 辻村深月『琥珀の夏』(文藝春秋、2021年)B 自分で考えることができる子どもを育てることを標榜し、森の中で共同生活を送る団体・<学び舎>。カルト集団と批判されながらも存続していたその森で、30年以上前の女子児童の白骨死体が発見さ…
【最近読んだ本】 樋口有介『林檎の木の道』(創元推理文庫、2007年、単行本1996年)B+ 17歳の夏休み、広田悦至は元カノから渋谷で会いたいという電話を受ける。気の乗らなかった彼はそっけなく断ってしまうが、そのあと彼女が千葉の海で自殺したことを知る…
【最近読んだ本】 山田正紀『幻象機械』(中央公論社、1986年)B+ 山田正紀がこんなものも書いていたとは、おどろいた。 主人公は脳とコンピュータの研究をしているらしい。疎遠だった父が死に、遺品のなかに石川啄木の未発見小説らしきものを見つけた彼は、…
【最近読んだ本】 平岩弓枝『千姫様』(角川文庫、1992年、単行本1990年)B 千姫の大阪城脱出から始まり、18歳のそのときから、70歳で人生を終えるまでの生涯を描く。 伊東昌輝の解説にあるように、悪女的な伝承の多い千姫を、史実寄りに描いている。一方で…
【最近読んだ本】 池波正太郎『まぼろしの城』(講談社文庫、1983年、単行本1972年)B- 戦国時代に関東と信濃・越後両国を結ぶ要衝の地・沼田を支配した沼田万鬼斎と、その一族の興亡を描く。 とにかく冒頭から最後までイヤな話が続く。とある娘との結婚を控…
【最近読んだ本】 北見崇史『出航』(角川書店、2019年)B ある日突然家出した母を追って、母が向かった北海道の漁師町を訪れた青年。しかし彼がそこで見たのは、死んだはずの生き物が奇怪な化け物になって徘徊する奇怪な光景だった。そして青年はやがて、死…
【最近読んだ本】 原浩『火喰鳥を、喰う』(角川書店、2020年) B+ おもしろい。表紙のインパクトもさることながら、中身も劣らずおもしろかった。 戦争で死んだ祖父が戦地で遺した日記と、現代において起きる奇妙な事件の謎を追っていくうちに、主人公は少…
【最近読んだ本】 羽山信樹『光秀の十二日』(小学館文庫、2000年、単行本1993年)B+ 薄いのであまり期待していなかったのだが、予想していたよりおもしろかった。 本能寺の変のあと天下人になった栄華もつかのま、わずか12日後に光秀は秀吉に追い落とされ、…
【最近読んだ本】 田中啓文『チュウは忠臣蔵のチュウ』(文春文庫、2011年、単行本2008年)B 津本陽の『新忠臣蔵』を読んでいたおかげで、なかなか楽しめた。よく知られた『忠臣蔵』の読み替えのおもしろさが大半を占めるので、忠臣蔵についてほとんど知らな…
【最近読んだ本】 早乙女貢『武蔵を斬る』(光文社文庫、1985年、単行本1981年)B 宮本武蔵の初期の強敵で、修行を経て強くなった武蔵にやられてしまうことで名を遺した吉岡清十郎・伝七郎兄弟。その従弟にあたる吉岡清一郎が、吉岡一門復興のために武蔵を仇…
【最近読んだ本】 隆慶一郎『一夢庵風流記』(集英社文庫、 年、単行本 年)A 『花の慶次』の原作として有名な、前田慶次郎の一代記。 エッセイからいつのまにか本編に入っていく語り口が良いし、慶次郎の自由奔放さも良いし、彼をとりまく個性豊かな人々も…
【最近読んだ本】 井上靖『真田軍記』(角川文庫、1958年)B 200ページに達しないくらいの薄い文庫本に、8編の短篇小説が入っているということで、軽い読み物程度のつもりで読みはじめたら、なかなかどうしておもしろかった。 おもしろかったのは、ほとんど…
【最近読んだ本】 神林長平『太陽の汗』(ハヤカワ文庫、1990年、光文社文庫1985年)B 久しぶりに読んだが、大学で翻訳論、コミュニケーション論、メディア論などを多少ともかじったのを踏まえて読むと、非常にわかりやすい。 世界中にウィンカという情報収…
【最近読んだ本】 白河三兎『もしもし、還る』(集英社文庫、2013年)B ある青年がふとめざめると、砂漠のどまんなかにいた。ここはどこなのか、なぜこんなところにいるのか途方に暮れていると、空から電話ボックスが降ってくる。その電話は、試行錯誤の末に…
【最近読んだ本】 若木未生『われ清盛にあらず』(祥伝社、2020年)B アニメ『平家物語』は、源平合戦のなかで消えていった平氏の若者たちを、もう一度浮かび上がらせた。多くの物語で、清盛や頼朝たちの戦いのなかで右往左往するだけだった若者たちが、それ…
【最近読んだ本】 高橋直樹『天皇の刺客 曾我兄弟の密命』(文春文庫、2009年、単行本2006年)B 時は鎌倉時代、曾我兄弟は、父のカタキである工藤祐経を、源頼朝の主催した富士の巻狩りのさなかに討ち果たす。兄は倒され、弟は勢いにまかせて頼朝も討とうと…
【最近読んだ本】 大仏次郎『源実朝』(徳間文庫、1997年、単行本1946年)B+ 鎌倉殿を見終えてから読もうと思っていたのだが、我慢できずに読んでしまった。今アマゾンで見ると3万円とおそろしく高値になっている。買っておいてよかった。 調べてみると、大…
【最近読んだ本】 町田康『ギケイキ 1・2』(河出書房新社、2016年~ )B+ 1巻の帯に「平家、マジでいってこます」などと書いてあるので、『義経記』にタイトルを借りた義経伝に過ぎないのではないかと思いつつ読んだら、ちゃんと『義経記』であった。河出文…
【最近読んだ本】高橋克彦『時宗 全4巻』(講談社文庫、2003年、単行本2000年~2001年)B 『時宗』とはいいながら、北条時宗はなかなか生まれない。話は1246年、時宗の父・時頼が、病床の兄・経時から19歳で執権職を譲られるところから始まる。北条政子の死…