DEEP FOREST/幻影の構成

読書記録。週2冊更新。A:とても面白い B:面白い or ふつう C:つまらない D:読むのが有害

山田正紀『幻象機械』B+、羽太雄平『乱の裔 大坂城を救った男』B

【最近読んだ本】

山田正紀『幻象機械』(中央公論社、1986年)B+

 山田正紀がこんなものも書いていたとは、おどろいた。

 主人公は脳とコンピュータの研究をしているらしい。疎遠だった父が死に、遺品のなかに石川啄木の未発見小説らしきものを見つけた彼は、同人誌に連載されたらしいその小説の探索をはじめるが、それとともに奇怪な現象が周囲に起こっていく。やがてそれは、主人公と石川啄木をつなぐ巨大な陰謀の存在を浮かび上がらせていく。

 幻想小説なら最後はわけがわからなくなって終わるところだが、SFなのでSFらしい真相を明かして終わるのでびっくりする。しかしすごいのはそれよりも、作中作として石川啄木の未発見小説が再現されていてとても再現度がたかいこと、そしてエピグラフとして引用される啄木の歌が鮮烈である。

まだ人の足あとつかぬ森林に入りて見出つ白き骨ども

青ざめし大いなる顔ただ一つ空にうかべり秋の夜の海

皆黒き面がくししてひそひそと行けりわれ問ふ誰が隊なるや

大いなるいと大いなる黒きもの家を潰して転がりてゆく

 などなど。たしかある本で北一輝石川啄木を類まれなる幻視者として並べ、ヴィジョンを持つ者は革命家か詩人になるしかないのだ、と論じていた覚えがあるが、まさにそういった資質をもつ人間であったことがわかる。石川啄木入門としても良い作品である。短いせいで、際限なくスケールが広がっていく傾向もおさえられている。

 

羽太雄平『乱の裔 大坂城を救った男』(廣済堂文庫、1999年、単行本1995年)B

 アマゾンで酷評されていたからどんなものかと思ったら意外におもしろい。

 時代は関ケ原から14年、遂に大阪の陣が始まろうというとき。主人公は足利将軍家の末裔・足利七郎太。将軍家の末裔とはいえ、足利義昭も死んでから10年以上たち、将軍家再興の野心など持ったこともない無欲な男なのだが、天性の将としての才を周囲は放っておかず、大坂の陣にのぞみ、恩人の義理におされて大坂城に入ることになる。徳川家康が、イギリスから仕入れたカルヴァリン砲4門による大坂城完全破壊による早期終戦をもくろんでいることを知った彼は、大砲を破壊すべく手勢わずか3名で敵陣に潜入することになる。

 司馬遼太郎の『城塞』を別の側面からみた感じで、大坂城は間者だらけで敵に様子が筒抜けのありさまで、七郎太には負ける未来がはっきり見えているのだが、それでも個々の将は良い戦いをするため、なかなか決着がつかない。七郎太はそれを冷静にみながら、恩人に報いるために自らも無謀な潜入作戦に踏みきり、タイトルが示すようにカルヴァリン砲を故障に追い込む。とはいえ歴史は動かしようもなく、故障しながらも放たれた一発は大坂城天守閣を砕き、怖気づいた淀君による停戦協定へとつながっていき、堀をすべて埋められるという敗北の原因をつくることになる。そういう意味では七郎太は結局目的を果たすことはできなかったことになる。

 つよくて頭もよいのに、大坂城で真田や後藤と並んで指揮官に推されても固辞する、徹底して無欲な七郎太が良いキャラクターである。冬の陣の結末を見ただけで姿を消すいさぎよさも良い。大坂の陣の外伝小説の佳品である。