DEEP FOREST/幻影の構成

読書記録。週2冊更新。A:とても面白い B:面白い or ふつう C:つまらない D:読むのが有害

乾緑郎『完全なる首長竜の日』B+、南原幹雄『灼熱の要塞』B+

【最近読んだ本】

乾緑郎『完全なる首長竜の日』(宝島社文庫、2012年、単行本2011年)B+

 植物状態になった患者の意識と対話することができる機械がある世界で、ある少女漫画家が、意識不明の弟の自殺未遂の真相を探ろうとする。しかし現実と区別のつかない弟の精神世界に入りこむうち、彼女の周辺でも奇妙な現象が起こり始める。

 ディックの『ユービック』がモチーフとしてあるのは解説でも触れられている。本家には及ばないながらも最後はぞっとした。しかしお話の大半が、少女漫画家の日常と、弟との子ども時代の思い出で過ぎていき、少々退屈である。それによってキャラクターにリアリティが与えられるのだとしても、もう少しサスペンスがほしかった。

 

南原幹雄『灼熱の要塞』(集英社文庫、1995年、単行本1992年)B+

 南原幹雄という作家は、無難な感じの歴史小説の書き手というイメージで、あまり読んでこなかったのだが、これはおもしろかった。

 時は幕末、文久2年。薩摩藩は倒幕運動を企んでいるという疑いをもたれていた。その要となるのが、集成館という一大軍事工場である。外部からの侵入者を決して許さぬ薩摩領に潜入し、その要塞化した集成館を破壊すべく、幕府から隠密が放たれる。

 歴史小説に名を借りた冒険小説である。解説で触れられているように、アリステア・マクリーンの『ナバロンの要塞』を意識したものだろう。要塞が出てくるのはほぼ終盤で、ややタイトルに偽りありというのが難点であるが、そこまでの薩摩潜入の道行はなかなか読ませるものがある。名作とまではいえないが、最後の要塞爆破が薩英戦争とつながるラストなど、歴史的事実のなかにうまく荒唐無稽な冒険小説的展開を入れ込んでいる感じで良い。

 ほかの作品も読んでみたくなった。