DEEP FOREST/幻影の構成

読書記録。週2冊更新。A:とても面白い B:面白い or ふつう C:つまらない D:読むのが有害

江崎俊平『神変天狗剣』B+、ジョン・ワトソン『幻の巨大戦艦』B+

【最近読んだ本】

江崎俊平『神変天狗剣』(春陽文庫、1983年)B+

 江崎俊平は春陽文庫でたくさん書いている作家として知っていたが、読むのは初めてである。読んでみたら、200ページ程度ですぐ読めるし、話もわかりやすい。

 主人公は白い頭巾に白装束の凄腕剣士・白雪丹後。彼は飛騨山中の平家部落「夕日の里」でひっそりと暮らしていたが、そこに眠る財宝を狙うものたちが里を襲撃し、丹後は生き残った姫・千鶴を伴い脱出する。江戸に出た彼は失明した千鶴をかくまいつつ、財宝の在りかを秘めているといわれる里の守り神・「五つのギヤマンの玉」を取り戻すため、相棒の猿・次郎とともに暗躍する。ハンターハンターのクラピカのような設定であるとは誰しも思うところ。

 前半は白雪丹後のただただカッコい活躍が描かれるが、後半は少しずつ様相が変わる。ギヤマンの玉を取り戻そうと活躍する丹後を待つ千鶴が、ただ守られるだけの立場に苦痛を感じて、丹後のもとを逃げ出してしまう。たちまち悪人に囚われた彼女を救ったのは、丹後と互角の腕をもつ天才剣士・辻十内。千鶴は丹後と同じく自分を守るとともに、目の治療も買って出てくれる十内に惹かれていく。いっぽう千鶴を必死に捜す丹後も、やがて十内に行きつこうとしていた……

 単純に現代の寝取られものに通じるお話ともいえるし、女性を守られるだけの存在として扱うことへの批判や、強い剣士が姫を大事に庇護することが彼女への束縛でもあるという皮肉も読み取れそうである。

 短い中で、単純なヒーローものからそれへの批判も含む佳作であると思う。

 

ジョン・ワトソン『幻の巨大戦艦』(結城山和夫訳、二見文庫、1999年、原著1998年)B+

 第二次大戦末期、戦艦大和の存在を知ったソ連は、それに対抗すべく巨大戦艦「スターリン」の建造を開始する。だが国の威信をかけたそれが完成したときには、原子爆弾の登場により巨大戦艦は戦争において無用のものとなり、「スターリン」は一度も活躍することなく終戦を迎えた。それから50年、ソ連崩壊の混乱のなかで、初めて「スターリン」に活躍の場が与えられる。無用の艦の管理を任されていた海軍大佐ヤーコフ・ゾフは、謎のアメリカ人から、「スターリン」を混乱に乗じて盗み出し、東南アジアの海域で大規模な海賊をすることを持ちかけられたのだ。閑職に鬱々としていたゾフ大佐はその誘いに乗るが、実はその背後には巨大な陰謀が隠されていた……

 大和に匹敵する巨大戦艦「スターリン」という時点でギャグかと思ったが意外におもしろかった。正直、戦艦のスケールはよくわからなかったし、話の中でもなぜ「スターリン」が必要なのか最後までいまいちわからなかった。出てくる悪人も小悪党程度のものばかりで、明かされる陰謀もたいしたものではない。

 それでもおもしろいのは、ゾフ大佐である。それまで特になんの活躍もせず、このまま引退まで勤めるだけだと思っていたのが、思いがけず艦長となって、海賊とはいえ海で戦うことになる。そのわくわく感が、物語をひっぱっていく。いろいろせせこましい陰謀はあるが、彼はそんなものは見えても気にしない。ただ艦長になれたことが嬉しいという、それで最後まで戦い抜く。細かいところは飛ばして一気に読めた。あまりに飛ばしてしまったのでゾフの弟のフェリクスがどうなったのかわからなくなってしまったのだが。この人が主人公っぽく始まったのに兄に持っていかれ、その後見る影もなくなったのは哀れであった。この二人の確執が後半効いてくるのかと思ったのだがそこは外れた。最後はかなり派手なアクションも読めるし、読後感も良い快作である。

 しかし厄介なのは、ジョン・ワトソンという作者名と原題のアイアン・マン、いずれも検索が難しいというところである。ほかの作品があるのかどうか知りたいのだが、いまだにわからない。