DEEP FOREST/幻影の構成

読書記録。週2冊更新。A:とても面白い B:面白い or ふつう C:つまらない D:読むのが有害

安生正『ゼロの迎撃』B+、ジョン・E・スティス『マンハッタン強奪』B

【最近読んだ本】

安生正『ゼロの迎撃』(宝島社文庫、2015年、単行本2014年)B+

 『生存者ゼロ』の続編ではあるが、ほとんど関係はないし、前作のようなどんでん返しもない、スタンダードな軍事アクションである。有効な対策を打てない政府の右往左往が描かれるあたりが前作と同じ要素か。謎のテロリストが東京に潜入して政府が翻弄されるという構図は、山田正紀の『虚栄の都市』を想起させるものであり、あの作品を現代にアップデートしたものともいえる。

 正直軍事面での描写がレベルとしてどの程度なのかはよくわからないのだが、印象に残ったのはいかに人を無駄死にさせるかという執念である。死ぬ人はだいたいが作戦ミスやとっさの判断ミス、あるいは目的を果たせずに無念の死を遂げる。正直読んでいてやりきれなくなってしまったが、重いドラマを読んでいる気分にはなった。

 

ジョン・E・スティス『マンハッタン強奪』上・下(小隅黎訳、ハヤカワ文庫、1994年、原著1993年)B

 ある日、マンハッタン上空にたくさんの飛行物体が現れ、次々にビームを発射して都市を岩盤ごと円形に切り取り、宇宙空間へ運び去ってしまう。拉致されたマンハッタンはドームにおおわれてどこか広大な空間におかれ、透明な壁の向こうにはほかにもドームが見える。どうやら他の星から同じように運ばれてきたものらしい。

 ――という、『首都消失』のような導入よりも問題なのは、当然マンハッタンをビームで切り取ったら、切り取った円周上にもたくさんの人がいるわけで、そこでたくさんの人間がすっぱり切られてしまい命を落としてしまう。それが淡々と進んでいくので驚いてしまった。これで死ぬのはもう不運としか言いようがなく、読んでいて同情に堪えなかった。

 それ以降はお手本のようなスタンダードなSFである。どうやら自分たちを連れ去った何者かにより、ドームの外から水や食料、空気やエネルギーが供給されるらしいとわかると、マンハッタン市長(黒人女性)のもとで一応の安定を見る。そして一部の者たちが調査隊を結成しドームの外へ出て一体なぜこんなことが起こったのかを探り、一方でマンハッタン市内では怪しげな宗教団体が生まれる。調査隊は幾度かの危機を経て宇宙人とコンタクトをとり、遂にこの事態の真相を知り、解決のために動き出すが、一方で宗教団体が足をひっぱる。しかし理想を信じる人々はそれも乗り越えて、敵を倒し、物語は大団円を迎える。

 アメリカSFの典型のようなお話で、これが日本だったらなど考えるのもおもしろい。