アンダースン&ビースン『無限アセンブラ』B-、フリーマントル『消されかけた男』B+
【最近読んだ本】
アンダースン&ビースン『無限アセンブラ』(内田昌之訳、ハヤカワ文庫、1995年、原著1993年)B-
ナノテクSFの代表作――だったと思ったのだが、読んでみたらそうでもない。月面で謎の死亡事件が相次ぎ、それがナノマシンの仕業だったと判明して、人類がそれに立ち向かう、という筋だが、結局のところ起こることもやることもパンデミックものと変わらず、えらく古い小説を読んでいる気分になった。ナノテクSFがいまいち流行らない原因が見えた気がする。
フリーマントル『消されかけた男』(稲葉明雄訳、新潮文庫、1979年、原著1977年)B+
フリーマントルは新潮文庫でトム・クランシーなどと並んでブックオフにたくさんあった作家で、そのためかえって侮ってしまうところがあって読んでなかったのだが、気まぐれで手に取ってみたら面白かったのだった。
主人公のチャーリー・マフィンは英国情報部員、だいぶ年を食って見た目も冴えない男で、若手からは老人とバカにされ、新しく来た上司にも煙たがられているが、実は誰よりも鋭い分析力と行動力をもつ。本来なら失敗続きの英国情報部を誰も知らぬうちに支えているのがこの男なのだ。
物語はチャーリー・マフィンのカッコよさと同僚や上司の無能さを見せつつ、冷戦構造を揺るがすようなソ連高官の亡命計画へと進んでいく。このあたりのCIAも巻きこむ熾烈な頭脳戦は、今読んでもなかなかに面白い。その中でいかにしてチャーリー・マフィンが勝利をつかんでいくのか、いかにして虐めてきた情報部員に復讐するのか、やや陰湿なピカレスクになっている。
スパイ小説というのは、ジェームズ・ボンド流の「酒と女の情報小説」と、ル・カレやレン・デイトンなどによる国際情勢を背景とした文学路線の二極があるというのはよく言われるものだが、本作はその両方が盛り込まれた優れたスパイ小説であるといえる。
これを読んで、あわててブックオフに行ってみたものの、もうフリーマントルの小説はほとんど置いていないのであった。気づくのが遅すぎた。