DEEP FOREST/幻影の構成

読書記録。週2冊更新。A:とても面白い B:面白い or ふつう C:つまらない D:読むのが有害

原浩『火喰鳥を、喰う』B+、塩野七生『チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷』B+

【最近読んだ本】

原浩『火喰鳥を、喰う』(角川書店、2020年) B+

 おもしろい。表紙のインパクトもさることながら、中身も劣らずおもしろかった。

 戦争で死んだ祖父が戦地で遺した日記と、現代において起きる奇妙な事件の謎を追っていくうちに、主人公は少しずつ奇妙な世界に迷い込んでいく。伝奇的なホラーに行くのかと思いきや、小松左京のSF味の入ったホラーを思わせる、現実感覚崩壊小説になっていく。

 やや冗長に思えなくもない。小松左京なら短編で書いたんじゃないかと思ってしまうが、戦場で実際になにが起こっていたのか判明する瞬間の戦慄は、なかなか類似のものが見つからない。道尾秀介がホラーとして全然怖くないようなことを選評で書いているがいったいどういうことなのか謎である。

 

塩野七生チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷』(新潮文庫、1983年、単行本1970年)B+

 15世紀のヨーロッパを舞台に権謀術数の限りを尽くして父の教皇とともにのしあがり、マキャベリマキャベリズムのアイデアを与えた奸雄、チェーザレ・ボルジアを描く。

 正直流し読みしていたが、最期がどうなるかまったく知らなかったので終盤はなかなかにショッキングだった。きっと信長みたいに裏切られて死ぬのだろうと思っていたら、こんな死を迎えるとは。

 やはり大事なのは健康である。どれだけ頭が良くても、どれだけ強くても、肝心なときに病に倒れては何の意味もないのであった。

 塩野七生の、チェーザレ・ボルジアのあらゆる神格化を排した筆致は運命の無情さを引き立てている。