篠田節子『仮想儀礼』B+、イアン・リード『もっと遠くへ行こう。』B
【最近読んだ本】
篠田節子『仮想儀礼 上・下』(新潮社、2008年)B+
宗教小説と起業小説を融合するというアイデアにより、ある宗教団体の誕生から崩壊までを余すところなく描き切った大作である。普通フィクションに出てくる宗教団体は、既に大規模になっていたり、発足から巨大化に至る途中が省略されていたりするものだが、ここでは省略なくすべて描かれているのがすごい。
不運が重なって無職になった男二人が苦し紛れに始めた宗教が、心に闇を抱えた人々の受け皿となり、救いを求める者たちのよりどころとなる。しかしそれを利用しようと企む者や、本人が無自覚に周囲を不幸に陥れる者たちがかかわってきて、混乱のうちにいつしか信者が暴走を始める。その事態は教祖にすら止めることができなくなり、集団は破滅へと突き進んでいく。
読みながら思い出すのは、モデルになったオウム真理教やイエスの方舟といった事件よりも、吉川英治の『平将門』とか、陳舜臣の『太平天国』とか、同じパターンをたどった悲劇の歴史物語たちである。ただ「今」を切り取っただけでなく、歴史が描かれていると感じるのだ。
物語が始まった時点で結末は見えているのだけれど、それでも読むのを止めることができない、今後も読まれるべき作品である。
イアン・リード『もっと遠くへ行こう。』(坂本あおい訳、ハヤカワ文庫、2022年、原著2018年)B
ある平凡な夫婦のもとを、なにやら胡散臭いセールスマンらしき男が訪れる。彼は夫のジュニアに対し、彼が宇宙開拓を目指す一時移住計画の候補者に選ばれたと言う。もちろんその間、夫婦は離れ離れになってしまう。志願したわけでもないのに一方的な通告に、彼はもちろん反発するが、妻は彼に同調しながらも何か様子がおかしい。セールスマンはそのまま夫婦の日常に入りこみ、「出発」の日までの長く奇妙な日常が始まる。
藤子不二雄のようでもあり、安部公房のようでもある。設定上は面白いはずだし、読んでいる間は楽しめたのだが、あまり好きではない。
それは結局のところ、お話が「夫婦生活の危機」のメタファーとして捉えられてしまうところにあると思う。妻と特に不満のない生活を送っていた男のもとに得体のしれない男が侵入してきて、いつのまにか居ついてしまう。彼に対する妻の態度もいまいち不可解で、急によそよそしいものに思えてしまう。背景がSF的であろうとも、小池真理子や乃南アサあたりの書きそうな夫婦小説と構造は同じである。そういう話に興味があれば楽しめたかもしれないが、あいにくとそうではなかったので、物足りなさがあった。
ひるがえって、これと比較すると安部公房は女性が排除されているということに気づかされるのだが、これについてはいつか考えてみたい。


