DEEP FOREST/幻影の構成

読書記録。週2冊更新。A:とても面白い B:面白い or ふつう C:つまらない D:読むのが有害

 北方謙三の『黒龍の柩』を読んだ。幕末の日本を舞台に、土方歳三を中心として山南敬助坂本竜馬勝海舟小栗上野介榎本武揚、村垣範正、徳川慶喜といった人びとが追い求めて明治政府を前に潰えていった夢を描く。
 その夢というのは、北方おなじみの独立国構想というやつで、志半ばで暗殺された坂本竜馬の計画を土方たちが引き継ぎ、徳川慶喜を王に据え、北海道の資源を活用した貿易国家を築こうとするのだが、西郷隆盛の策略により計画は次々に挫折していく。西郷がめったに人前に顔を見せないほどの猜疑心の強い人物として描かれていて、妙に小心者なイメージで、敵の黒幕という雰囲気ではなかった。むしろ真の悪役は彼ではなく、天候や行動のタイミングといった、土方たちの夢を阻んだ運命のほうである、といったところか。西郷自身もまた西南戦争で滅んでいくわけであるし。
 本作の最後で土方は史実通りに死なず、身代わりとなった男の死を見届けて北海道の大地へ去っていく。一見爽快なラストであるが、無駄に終わった夢のために犠牲になった人びとや、それに関係ないところで己の信念を貫き死んでいった近藤勇沖田総司らのことを思うと、むしろ去っていく彼の背中は切ない。

黒龍の柩 (上) (幻冬舎文庫)

黒龍の柩 (上) (幻冬舎文庫)

黒龍の柩 (下) (幻冬舎文庫)

黒龍の柩 (下) (幻冬舎文庫)