DEEP FOREST/幻影の構成

読書記録。週2冊更新。A:とても面白い B:面白い or ふつう C:つまらない D:読むのが有害

最近の入手本
『星明かり燦々 坂部三次郎自伝』(ダイニック、2002年)
 書籍装幀用クロスメーカーで有名なダイニックの元会長・東京理科大学元理事長の坂部三次郎(1923 – 2001)の自伝。一周忌を記念して息子・坂部三司による編集。

 自社の工場内に天文台を作った話など、全体に他愛ない思い出話だが、総合塗布メーカーとして戦争中に風船爆弾の技術者として働いていたという話があって、これは面白い。
 風船爆弾の基布は和紙をコンニャク糊で貼り合わせて作るのだが、コンニャクは水を通すが水素は通さないという性質を持っている反面、効率よく固めるのが難しい。最初は京都の友禅屋が引き受けたがうまくいかず、著者が研究の末、重炭酸ソーダならうまく固まることを発見した。生産の開始は1944年10月、女子挺身隊員により日劇や有楽座などの大劇場や映画館で気球に縫製され、1945年3月に水素ガス製造工場が空襲で焼けて中止されるまで、約9000個の風船爆弾が福島や茨城、千葉から放たれた。もちろん大部分は海の藻屑となったが、いくつかはオレゴン州などに到達し、六人の死者を出した。作戦終了後、基布は海軍の毒ガス用の防御衣に使われることになった――ということで、さすがにその後の経過は書いていないが、話は『人間の証明』や『毒ガスと科学者』に引き継がれる――というところか。
 しかし豪華な装丁である。よく見たらデザインが菊池信義。