DEEP FOREST/幻影の構成

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「超能力サラリーマン・タカツカヒカルのヒーリングセミナー」について

「超能力サラリーマン・タカツカヒカルのヒーリングセミナー」高塚光 東急エージェンシー 1994年

超能力サラリーマン タカツカヒカルのヒーリング・セミナー

超能力サラリーマン タカツカヒカルのヒーリング・セミナー

「まずヒーリング中のわたしと受ける人の間に、白いモヤモヤした三角形が出現した。
別に煙草のけむりのようなものではなく、あくまでイメージなのだが、
それをわたしは見ると感じることができる。
三角形は二等辺三角形に近い形だ。底辺がちょうどわたしの体の横幅程度の。
しかし、物体としての枠のようなものでもなく、その三角形のイメージは無限に拡大している。
それをしばらく感じていると、三角形の中央あたりから何かがポンと抜け出て、どこかへ飛んで行く。
そして果てしなく上昇し、またたく間にシュッと消えたと思うと、
何秒か経ってわたしの体内にシュッと戻ってきた。
その何かがわたしの体内から掌へ指へと移動し、相手の人の体内へポンと届く。
その瞬間、わたしはこの人は治ったと感じた。」(ヒーリングのイメージから)


当時、「超能力」というものが広く脚光を浴びていた。
もしかしたら今でもそうなのかもしれない。
江原啓之細木数子は現在広く人気を博しているし、
スピリチュアル・ブームであるということも雑誌でよく言われている。
超能力で迷宮入り事件を解決する、などという特番もよく目にする。


そもそも日本では周期的にそういう未知の世界への憧れが噴出する時期があるのだという。
80年代のニューエイジ・ブームがそれであり、
再びその波が押し寄せてきたのである、という考え方だ。
オウム事件以来日陰に追いやられていた超能力が、再び広く脚光を浴びる日も近いのかもしれない。


しかしブームが再燃しているといっても、今と昔で違うものはやはり存在するだろう。
科学はマトモに超能力を相手にすることは殆どなくなったし、
少なくとも超能力へのあこがれや感心を露わにすることは、世間的には問題のあることとなっている。
本書はそうでなかった時代に数多く出版された、超能力者自身による手記の一つである。


本書の大筋は当時出版された類書と殆ど変わらない。
すなわち、自分が超能力に目覚めた経緯を述べ、
それが全く特別なものではなく、誰もが持ちうる能力であることを主張し、
自分の能力がどのようなものかを説明し、
さらには未来や人類についての予言などを記し、
誰か権威のある人の推薦や対談を載せ、説得力を持たせる。
本書もおおむねそういう構成になっている。


ただ高塚光の場合、他の「超能力者」と大きく違っている点が一つある。
それは、この人が少なくとも表面上は実に無欲でマスコミ嫌いである、ということだ。
まあ欲望丸出しの超能力者はそうそういないかもしれないが、
彼らは概してタレント志向で、マスメディアにむけて売り出していったり、講演会などを行ったりと金儲けの姿勢が見え隠れしているが、
高塚光は自らの持つ「ヒーリング・パワー」を飽くまでも人助けのために使う。
それもボランティアで、である。広告代理店でサラリーマンとして会社勤めを続ける一方で、
悩める人々の相談に乗り、ヒーリングを行なう。
そのため一日3時間の睡眠時間で、借金までしかねない状態にあるという。
人は集まっているのである。一時期は一日で4万3000本の電話依頼が来て、
NTTから電話回線を増やしてほしいと相談されたこともあったという。
のみならず、いくつかの宗教団体から教祖にならないかと勧誘も受けていたらしい。
だからお金を取れば解決するのに、そうはしない。


それは、超能力が自分の欲を奪っているからである――らしい。
大いなる力に動かされているのではないか、という考えが、自分の超能力への畏怖につながり、
それをビジネスに使おうという気が全く起こらないというのである。
あくまでも自分が治しているのではなく、人々の潜在的な力を引き出しているだけなのだから、
神とか仏とかによるものなのかもわからない。
こうして超能力によるヒーリングの傍らサラリーマン生活を続け、
それゆえに無責任でもある彼は、
バブル崩壊で経済も政治も失墜し、宗教もその欺瞞性が暴かれ、科学も行き詰って医療の限界が見え出し、精神世界が注目されていた当時において、
そこから自由な存在として脚光を浴びることとなったのではないか――
著者はそう分析している。
「人間の叡知を知り尽くした上での社会的末期症状というのは、歴史上、現代が初めてであろう」


こういった超能力者像はなかなかに斬新だったらしく、
飯田譲治はその代表作の『NIGHT HEAD』のドラマ・小説版の双方において、
彼をモデルとした人物・神谷司を描いている。
神谷司は予言者として名声を博し、一種の宗教団体を形成している一方で、
一流企業の重役としても活躍している人物である。
それを知った主人公は、
超能力者が社会の中で普通の人とともに生きている、という事実に驚愕する。
普通超能力を持つ人間は気味悪がられ、社会から排斥されるものだからだ。
つまり当時の人々の、一生賞賛されながらも日陰で生きる超能力者、というイメージの正反対であるからこそ、人々は高塚光という存在に他の「超能力者」と違うものを感じたのだと言える。


そんな彼が本書を出したのは、「もう自分でやってよ」という気分になったからだという。
なぜなら彼の能力は練習次第で「誰にでもできるもの」だからだ。
実際彼自身が超能力に目覚めたのは38歳の時、
母の末期がんを治そうとしたのがきっかけだったという。
だから彼によれば、生まれつきの才能など関係なく、
機会さえつかめれば誰にでもできるのだ。
それで皆がヒーリングをできるようになれば、
一日4万3000本も依頼が来て、ヒーリングを必要とする人がそれを受けられなくなるということもなくなるだろう、というのが著者の考えである。
本書はそのための修行の方法を述べている本である。


以下、「ヒーリング・パワーの引き出し方」を抜粋してみる。
非常に簡単なので、周りに人がいないことを確認の上試してみるといいと思う。


「両掌を胸の前で、一センチメートルほど間隔を開けて合わせます。
次に肩の力を抜き、両目を閉じてください。
右のほうをじっと見つめると、そこにはモヤモヤした、白く淡い光のようなものが見えるはずです。
あるいはチカチカと光る点が見えてきます。
目を閉じたまま呼吸を整え、この淡い光やチカチカと光る点をじっと見てください。
すると、その暗闇は宇宙そのものだということが感じられてきます。
宇宙に自分がふんわりと漂っているのです。
そのイメージが浮かぶようになれば、もうあなたの潜在能力は目覚め、
無限のエネルギーが強力な治癒能力に転化されているはずです。
同時に両掌に温かいものを感じます。
それが指先まで流れていくのを感じるのです。
決して真剣になったり深刻になったりしないで下さい。
あえて言えばゲーム感覚で試してみるほうが、
このパワーをより早く引き出すことができます」


いかがであろうか。
試してみると実際、「両掌に温かいもの」を感じると思うが、
普通それは、それだけ離れていても熱を感じる人間の感覚の鋭敏さ、という解釈になるのだが、
この場合は手と手の間をヒーリングパワーが流れている、と考える。
目を閉じた時に見えるものについては「宇宙との一体化」と表現しているが、
その前に見えるモヤモヤした淡い光は生体フォトンというもので、
宇宙のありかを示している――らしい。


この力を患部に送り込むことにより、病気が治ったりする、というわけである。
中には、猫の眼底出血が治ったとか、
頭に送り込むことにより受験生が志望校に合格した、という例もある。


実際に例えば、目が疲れているときには、単に目を閉じているよりも、
掌で覆うようにして休んでいた方が回復が早いのは確かである。
これをヒーリングパワーによるもの、とみなすこともできるし、
掌が微弱な電磁波を出していることと、
なおかつ適温であるため掌で覆っていると温湿布の役割を果たすから、といういくらか科学的な解釈を与えることもできる。
ちなみに後者は筆者の中学時代の保健体育の教科書に書いてあった話だ。


幾つか補足されていることを挙げれば、
この「宇宙との一体化」は仏教やヨガでいう「無我の境地」と言い換えることができる。
この「無我の境地」にある日突然無意識に至ってしまったのが高塚光なのである。
この境地に、人為的にある段階を経て到達するのが気功術や太極拳である、というのが本書での説明である。
そしてこの「無我の境地」の高塚光なりの表現が、
「宇宙との一体化」であり、「宇宙感の獲得」なのである。


ただ「宇宙」といっても、その「宇宙」というのは必ずしも地球の外に広がる空間のみのことではないようである。
彼が追い求めるのは脳に常に映し出されている宇宙である。
すなわち「脳内宇宙」。
自分の中の「脳内宇宙」と出会うことができたなら、外宇宙は無条件にそれに連なっている。
それを知るためにはまず脳の「呼吸」を感じること、
つまりは脳の存在を感じること。
この過程はよくハウツー本にある「さあ宇宙をイメージしましょう」というようなこととは違う。
彼によればそれでは脳があくまで日常的・表層的なレベルでのみ働くことになってしまい、
自分が生まれてから習い覚えた常識としての宇宙の再現に過ぎないのだという。
それは「無限」であっても、所詮は有限に過ぎない。
もっと本能的に、素直になることだ。そう著者は説く。
そして無限の宇宙に達した時、何か温かいものが体を伝わり、指先にビリビリした感じを覚える。
それを指先から体の不調な部位に伝えるのがヒーリングなのである。
この段階にくればスプーン曲げやら未来予知やらといったことも同レベルのこととしてできるという。


この目を閉じると宇宙が見えるということに対し、
高塚光は「魂の帰巣本能」という説明を与えている。
ここで魂が帰るのは宇宙の始まった瞬間、虚から有へと変わった特異点
一でもゼロでもないその狭間、ビッグバンが始まろうとする無限のエネルギーに満ち溢れた「場所」である。
そこへ帰ろうという意識が脳にインプットされているがゆえに、我々は目を閉じたとき宇宙と一体化し、ヒーリングパワーを引き出すことができるのだ。
また、冒頭に挙げたヒーリングの際の三角形のイメージから、
異次元から力を得ているのではないか、と推測している。


ヒーリングができるようになれば未来予知や透視もできるようになるという。
未来予知は、
ヒーリングと同じように目を閉じると、目の前に道が見える。
それは広くどこまでも続いていたり、二つに分かれていたりするわけだが、
そこに黒い帯が横たわっているのが見える。
そこに文字が浮き出したりしていれば、
それが避けるべきものである。
また透視は、
実際にものを見通すのではなく、
それを仕掛けた人間の意識を読み取ることによりわかるという。
こういった能力に、タキオン粒子の存在を仮定している。
光より速いというタキオン粒子が人間の脳から発することにより、
脳は時間を越えることができる。
脳の情報を得たタキオン粒子がまた戻ってくることにより、我々は未来を知ることができる。
「そういうことだ。」と著者はなんでもないように言い切ってしまう。
そう言われても困るけれど。


本の半分以上を占める対談の相手は、
高塚光の人生を映画化した「未知への旅人〜超能力者」で高塚光を演じた三浦友和
トンデモ本の世界」にもよく出てくる当時気功などを研究していた町好雄、
かつて妻の治療を高塚光に依頼した医学博士の三宅健夫。
どれも基本的にはお金を取らずに人々を癒そうとする高塚の姿勢を賞賛し、
もっとこういう力が世の中に認められるべきだという話である。
それ以外にも、町好雄は気功との類似性や脳科学的な解釈を熱心に語っていて、
例えば話している間は左脳が動いていてヒーリング中は右脳が働いているなど、
読んでいて興味深くはあるが、いずれも本編の域を出るものではない。


面白いのは、それらの対談を踏まえて書かれた著者のあとがきである。
ここで高塚は、今までの話は総て右脳の話であったのだ、と明かす。
彼によれば、20世紀は左脳の壮大な実験場に過ぎなかった。
20世紀において人類はあらゆる学問をそれぞれの観点から追究していき、
結果として科学や医療は限界が見え出し、
国家やイデオロギー、経済や既成の価値観は崩壊し、
どこにも救いのない時代に突入することとなった。
それは左脳の活動の結果なのであり、だからこそ20世紀は「左脳と知能の時代」であったと言える。
それに対し、21世紀は「右脳と知性の時代」となる、と予言する。
その精神世界へのパスポートとたるべくして書かれたのが本書なのだ。


この本には、当時の精神世界の思想が、
様々な形で取り入れられている。
バブル崩壊湾岸戦争などで、
科学や経済の発展が人類の幸福につながるというテーゼの欺瞞が明らかになってしまった時代、
人々は自らの内なる宇宙の追究を目指した。
だがそれもまた欺瞞に過ぎなかったということが、わずか1年後のオウム事件で明らかにされてしまうのであるが。
終わりに、著者があとがきの最後に記した約1ページのメッセージを掲げる。
ここに、当時精神世界の果てに未来を見出した人々の願いの集大成がある。
それを今という時代に生かすか、昔のこととして黙殺するかは、我々一人一人の選択次第なのだ。


「21世紀は、誰もが内なるサムシングを要求される時代である。
その内なるサムシングとは、夢であり希望であり勇気のことではないだろうか?
何をタワケタことを、と思ったあなた。
あなたに、いま、夢が、希望が、勇気が、ありますか?
21世紀は、人間として普通のことを、普通に行なう時代なのです。
自然をブチ壊し巨大な地域開発を行なうビッグプロジェクトへの夢、
すでに繋ぎ止めようもない心がただ同居するだけになった家族の希望、
世界平和の名のもとに殺人が正当化される国連平和維持軍参加への勇気、
どう考えても、これが普通であろうはずがない。
もう一度、言います。
21世紀は、人間として普通のことを、ごくごく普通に行なう時代なのです。
国連平和会議の冒頭に流された、
ジョン・レノンの『イマジン』とかいう欺瞞に満ち満ちた歌などに、
うっかり騙されて見た夢は、21世紀の悪夢である。
霊長類たる人間として、自分の60兆からなる細胞の一つ一つに、
あなた自身が本当の真実の夢と、希望と、勇気を、しっかりと言って聞かせてやっていただきたい。」