DEEP FOREST/幻影の構成

読書記録。週2冊更新。A:とても面白い B:面白い or ふつう C:つまらない D:読むのが有害

今邑彩『鋏の記憶』B、牧野修『ネクロダイバー 潜死能力者』B

【最近読んだ本】

今邑彩『鋏の記憶』(中公文庫、2012年、単行本1996年)B

 物に触れるだけで持ち主の情報を読み取ることができるという、サイコメトリー能力を持つ女子高校生が主人公の、ホラー風ミステリである。連作短編で4話収録である。

 最近の、ルールがやたら細かい、ゲーム性の高いミステリに比べると、設定はだいぶ緩い。触れただけで持ち主の細かい情報がわかるときもあれば、断片的にしかわからない場合もある。超能力を厳密に考えるというよりあくまで、事件の謎を解くヒントを、物語の進行に都合の良いように与えるだけである。むしろ物語の主眼は、サイコメトリーによって得られた情報が現実と食い違っているという問題をどう解くか、その能力で真実を明らかにすることで本当に人は幸せになるのか、といったところにある。

 どれも読みやすいしわかりやすいが、今邑彩だから、読後いやぁな感じを残す話も多い。とはいえ、なんとか希望を残そうという意志も感じられて、いやぁな感じと良い話を読んだ感じと、ふたつが混ざりあって変な読後感である。

 

牧野修『ネクロダイバー 潜死能力者』(角川ホラー文庫、2007年)B

 残酷な死を遂げた人間が悪霊となったのを、成仏させる特殊能力者の組織――といった感じの話を、人間それぞれに憑いているという「守護蟲」、人が死んだときに蟲がその人の物語を書き遺す「蟲文」、それを読み取って死の世界に潜入する能力をもつ戦士である「ネクロダイバー」といった設定を導入してアクションホラーSFというべきものに再構築している。

 死の世界がサイバースペースっぽいあたりは攻殻機動隊のホラー版を意図したものだろうか。いまだと呪術廻戦を連想する。公務員のような組織が悪霊に立ち向かう図式やそこに偶然で雇われるはみ出し者の主人公といった立ち位置は枚挙に暇がないが、本書もそのテンプレートの中で、ダメな主人公や残酷な犯罪者たちなどがぞくぞくと登場し、牧野修らしい、夜の闇のなかにずっといるような雰囲気の物語を展開している。

 牧野修といえば、アンモラルな価値観やテクノゴシックな世界観といった要素があげられるが(確かにそうなのだが)、一方でとてもまっとうな物語作法や倫理観が貫かれていて、堅実に始まり堅実に終わるところが、安心するところでもあり不満になることもある。ディックばりの現実崩壊がつづいてそのままほったらかしで終わってしまうような、そういう話も読んでみたい。