DEEP FOREST/幻影の構成

読書記録。週2冊更新。A:とても面白い B:面白い or ふつう C:つまらない D:読むのが有害

 天祢涼の『キョウカンカク』を読んだ。メフィスト賞受賞作。
 タイトルから察せられるように、「共感覚」を持つ探偵が登場する。
 探偵――音宮美夜は、音を聞くと色を見ることができて、それにより他人が認識できない感情を知ることができる。これは共感覚というよりは超能力の言い換えという感じである。人を殺したあと死体を焼いていく連続殺人犯「フレイム」が出没する地方都市を舞台に、依頼により調査に訪れた彼女と恋人を殺された少年が事件に挑む。二人はお互いに利用する気満々であるなど、出てくるキャラがことごとく性格が悪くて好感が持てないため読み進むのに苦労した。ただしそれが目くらましになっていたのも確かである。
(以下ネタバレ)
 音宮美夜のエキセントリックな言動は、深い企みによる一見奇抜な行動をうまくカムフラージュしていて、読み終えて振り返ってみると意外に周到に作られていたことがわかる。とはいえそれが明かれるまではキャラの言動がいちいち不快なので騙されたからと言ってあまり喜べない。
 ただ、やられたと思ったのが「共感覚者はもう一人いた」という真相である。それはつまり、先に書いたように、共感覚というより超能力として読んでいたつもりだったのだが、自分についてはそれが徹底していなかったということである。
 超能力小説には、特に主人公が超能力者の場合、「もう一人の超能力者」が必ず現れる。そうしないと主人公が特権的な存在になってしまうからである。強大な力はそれを持つ人間が優れている証であり、対等な立場の人間が現れることでそのことが否定される。それに対して共感覚は体質であるため、最終的には誰にも理解されないという孤独が主題になる。本作品も当然そうなるものとばかり思っていた。テレパシーと呼ばず共感覚と呼んだだけのことで目くらましをされてしまったのである。これは意図的にかどうか知らないがかなりうまい。
 オチは言葉遊びだったが、これ自体はあまり感心しなかった。これをやるなら西尾維新くらい過剰にやるか、原田源五郎くらいに序盤からさりげなく出して行くなどすべきだと思う。

キョウカンカク (講談社ノベルス)

キョウカンカク (講談社ノベルス)