DEEP FOREST/幻影の構成

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記憶の仕組み

新日本速読研究会会長・速脳研究会会長の川村明宏は、
著書「頭がよくなる速脳術」(光文社カッパサイエンス、1993年)の中で、記憶の仕組みについて述べている(p.64)。

頭がよくなる速脳術―情報は色と形で処理しろ (カツパ・ブックス)

頭がよくなる速脳術―情報は色と形で処理しろ (カツパ・ブックス)

人間が記憶しようとしているときには神経細胞の接続部のシナプスで、ある変化が引き起こされる。
短期の記憶のメカニズムは、シナプスを信号が伝わるときに放出されるアセチルコリンのような伝達物質の量が変化して信号が伝わりやすくなったり、逆に伝わりにくくなったりすることで、情報が一時的に蓄えられる。
アナログ的な情報であるから、短期で劣化して消滅してしまうわけである。
これに対し長期の記憶は、シナプスの形態的な変化が起きたり、新しいシナプスが形成されることによって、持続的に蓄積できるようになっているのだ。

このあたりは短期記憶・長期記憶の説明として(真偽のほどはともかく)ありふれたものでまあ良いとして、

さらに、より長期にわたる記憶の維持には、タンパク質の新たな合成が必要と考えられている。

と述べて、タンパク質合成にはDNAが根本にあることから、

持続的に神経細胞に加えられた刺激は、シナプスの変化に留まらないでDNAにまで刷り込まれて蓄えられるのである。

と、DNAによる記憶という、とんでもない話が突然始まる。
この説によれば、

例えば幼いときの楽しい思い出などは誰でも比較的よく記憶に留めているものであるが、これがDNAに蓄えられているとすると、必要に応じてRNAに転写され、それにもとづいてタンパク質が形成され、(中略)記憶として甦り、楽しみや悲しみといった感情に結びついたり、行動に移る引き金の役割を果たすのである。

幼時の記憶を思い出すのにいちいちタンパク質合成からはじめるのは非常に気の長い話のような気もするけど。
こういった記憶はDNAのうちの使われていない、いまいち機能の不明な「遊びの部分」(つまりはイントロン)に刻み込まれるが、

脳の神経細胞のDNAだけに留まって、生殖細胞のDNAにまで伝達されることはないから、親の記憶が子供に受け継がれるということはありえない。

と述べ、しかし将来的には科学の進歩によって、自分の記憶を他人の遺伝子に組み込むことで伝達したり、
親の記憶を子に受け継ぐこともできるようになるかもしれない、という、
SF小説じみた未来を提示する。



まあ記憶をDNAに蓄えるとか、どう考えてもありえない話だけど、
この本が脳科学の本じゃなくて速読術や記憶術を扱った本であることを考えると、
物事の記憶の仕方、というわかるようでわからないものに一つのイメージを与えるためのものなのかもしれない。
つまり、闇雲に「頭に刻み込め!」とか言われても、
頭のどこに刻み込むと考えれば良いのか、ちゃんと刻み込まれたのか、
気にすればするほど、いまいち実感がわかないけれど、
「DNAに刻み込め!」と言われると、何となく刻み込む<場所>が特定できるような気がするし、
覚えた後自分の一部になったような気にさえなれる…と思う(やってみよう)。
(僕の場合は胸の奥に刻み込むようなイメージだけど、人によっては違うかもしれない)
そう考えると、本人もそんなわけはないと知りつつ、
イメージトレーニング的な要領で嘘を言っているのかもしれない。


まあ何にせよ、記憶をDNAに刻み込む、というアイデアは、
(SF的な)ロマンがあって僕は好きだ。