DEEP FOREST/幻影の構成

読書記録。週2冊更新。A:とても面白い B:面白い or ふつう C:つまらない D:読むのが有害

 松田志乃ぶ『平安ロマンティック・ミステリー 嘘つきは姫君のはじまり ひみつの乳姉妹』(コバルト文庫)を読んだ。
 コバルト文庫の歴史に位置づければ、氷室冴子の『なんて素敵にジャパネスク』の流れを継ぐ平安時代少女小説であり、同時に正統なミステリ小説でもある。
主人公の宮子は頭はあまり良くないものの、元気で明るく前向きで、行動力にあふれている少女である。それは少女小説のキャラクターの典型であると同時に、ミステリにおける助手の要件も満たしている。つまり、ここに探偵役のキャラクターさえ用意できれば、少女小説とミステリの融合は意外に簡単であるということになる。
 本作では宮子の乳姉にして主人である姫君・馨子(かおるこ)が万能の探偵として、事件の解決と宮子の庇護を務めることになる。彼女は平安時代の因習にしばられない自由な発想力と鋭敏な頭脳の持ち主であり、その破天荒さで宮子を翻弄しながら事件を解決する。また、宮子の幼馴染で恋人の真幸(まさき)も、同じく馨子に振り回されながらも朝廷の役人という立場から何かと手助けをしてくれる。
 これに加えて、馨子は妊娠中で自由に動くことができず、宮子がメインで調査に動くことになるなど、ミステリとしての枠組みはほぼ磐石といって良いだろう。人間関係は複雑だが、それぞれのキャラクターの描き分けはしっかりしているので楽に読める。
 とはいえ第一巻は事件そのものには不満が残る。殺人事件は起こらず、ある姫君の失踪事件をめぐって話が展開するというのがまず地味だし、失踪する姫が最後まで登場せず伝聞でしか描かれないため、メインキャラクターに比して魅力に欠ける。また、事件の鍵を握る家宝の楽器の謎も途中のヒントで大体主人公よりも早く気づいてしまう。
 しかし先に述べたようにミステリとしての舞台設定はしっかりしているし、事件をめぐる政治闘争など地味な分ディティールは細かく、メインキャラクターのやり取りを読んでいるだけでも楽しめたし、一巻では脇役にとどまったものの思わせぶりに魅力的なキャラクターも多々登場していたし、さらに四位広猫のイラストも相まって、続巻への期待は十分に持たせる。幸い現在もシリーズの刊行は続いている人気シリーズらしいので、続きも追ってみようと思う。