東野圭吾『十字屋敷のピエロ』B、葉室麟『実朝の首』B
【最近読んだ本】
東野圭吾『十字屋敷のピエロ』(講談社文庫、1992年、単行本1989年)B
十字型の奇妙な屋敷で起こる連続殺人事件を描くミステリ。本作ではもう一ネタ、意識を持つ奇妙なピエロ人形というものが出てきて、そのピエロから見た事件が語られる。これにより読者は登場人物の知らない情報も得ることができる――かと思いきや、それがミスリードにもなっているという、仕掛けに満ちた作品。面白いけど、初期の東野らしい奥深い人間ドラマは後退し、アイデア先行でややひねりすぎた感じである。
葉室麟『実朝の首』(角川文庫、2010年、単行本2007年)B
源実朝の暗殺事件とその後の混乱、承久の乱の終結までを描いた歴史小説――ということになるが、事態の収拾を図る北条義時・三浦義村・北条政子ら首脳部と、政治の主導権を取り戻そうとする朝廷の駆け引きが描かれるかと思えば、何者かに持ち去られた実朝の首をめぐって、かつて幕府内の争いに敗北して消えていった阿野全成・和田義盛の息子たちなどが現れ、事態をさらなる混乱に陥れる。
実朝の死をきっかけにそれまでの鎌倉幕府内の争いがさながら亡霊のように立ち現れてきて、幕府の歴史を300ページ程度で手際よく一望したかのような一作である。こちらが『鎌倉殿の13人』である程度わかっているせいもあるが、読みやすいし、和田義盛の息子の朝盛など魅力的に描かれ、のちに表舞台で活躍するバサラや悪党への橋渡しという感じでもある。話のスケールが広がっていったせいで、肝心の「実朝の首」や実朝暗殺の真相はややマクガフィン的な扱いになってしまった観はないでもないが、大河ドラマを良い機会に読まれるべき一冊である。