DEEP FOREST/幻影の構成

読書記録。週2冊更新。A:とても面白い B:面白い or ふつう C:つまらない D:読むのが有害

佐野洋『脳波の誘い』(講談社、1960年、その後春陽堂講談社で文庫化)を読んだ。

 1958年デビューの佐野洋(1928-2013)の作家歴でいえば、最初期にあたる長編である。
 ある日出版社に、自分はテレパシーを使えると称する老人が現れる。自分の思想を記した本を出版したいという彼に、応対した雑誌記者はある「賭け」を持ち出す。老人がある富豪をテレパシーで自殺させられたら、本を出版しても良いというのだ。一か月後、意外にもその富豪は首つりの状態で発見される。警察が自殺の判断を下そうとしている中、テレパシーで彼を自殺させたと誇らしげに語る老人が現れ、捜査は一気に混乱に陥る。老人に「賭け」を持ちかけた記者が、実は富豪の内縁の妻と不倫の関係にあるなど、錯綜する人間関係のうちに、真実が徐々に明らかになっていく。
(以下ネタバレ)
 今読むと、ドラマの『TRICK』を連想する作品である。佐野洋は同時期に『金属音病事件』(1961年)などのSFミステリも書いているが、これはそういうたぐいのものではなく、あくまで現実に即して常識的な判断が下される。超能力はない、というのがかなり序盤から共通了解で進んでいき、真相は合理性というより「誰が犯人だと意外か」という基準で決められたような印象であったが、語り手や視点を変えたり、終盤は法廷ものに移行したりと、バラエティに富んで楽しめる。
 物語上はあくまで知的ゲームに徹しており、解決後のことはほとんど描かれない。だが、断片的には、それぞれの人物が事件をきっかけに変化を蒙っており、そのほとんどがとても幸せになれたとは思えない。その意味で後味の悪いものが残り、そこも『TRICK』に似ている。