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平山瑞穂の『3.15卒業闘争』を読んだ。
学生運動ものかと思ったらディストピアSFだった。
高度な管理体制のもとで支配される中学校で学生生活を何十年も繰り返している「少年少女」たちが、その閉塞状況から脱出するために立ち上がる――というのが本筋のはずだが、ほぼすべてのページが主人公の鬱屈した日常の描写に費やされている。本当は30歳くらいなのに中学生として生きているというイヤな設定で、とにかくずっと女のことばかり考えているのである。彼は自分の住む世界が多少おかしいとは思っているが、目先のことしか頭にないため何もしない。ディストピアものの主人公としてはあまり適していない。
だが物語は一貫して彼の視点から語られ、世界の全体像をつかむための手がかりは極端に制限されている。その上あまり本筋に関係ない雰囲気作りのためのガジェットも多いため、読みやすいとはいえない(たとえば、冒頭に登場する「コフィン」と呼ばれる冷凍睡眠装置のような宿泊装置。だがそれの本当の用途は……と後に明かされるのだが、物語世界の閉鎖的なイメージを強化する役には立っているものの、最終的にネタばらしをされれば存在に必然性のあるとはいえないものだった)。
もっとも、主人公をよそに脇役たちが続けていた脱出作戦はことごとく見当外れに終わり、色ボケしていた主人公が偶然脱出の手がかりを得て「卒業」するというラストから考えると、ほとんどのヒントが無意味だったというのは意図的なものだったのかもしれない。最後は理知ではなく本能こそが突破口となるというのがここでの真実である。ただし、ラストは一応「日常」へと脱出できたようにも見えるが、新たなループに入っただけという印象もあり、やや判断しがたい。
ループしたまま秩序が維持されていくシステムも実のところよくわからず、多分に雰囲気に重点が置かれていたように思える。さりとて現代の若者の青春を風刺しているとも言いきれず、いまいち狙いがわからなかった。ただ表紙イラストのせいか、昼間でも空が薄暗くなっているようなイメージがあり、前述の「コフィン」に象徴される閉塞感ともあいまって、ディストピア小説の空気感を楽しむ上では悪くない。
- 作者: 平山瑞穂,田中達之
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2011/11/28
- メディア: 単行本
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