DEEP FOREST/幻影の構成

読書記録。週2冊更新。A:とても面白い B:面白い or ふつう C:つまらない D:読むのが有害

 佐神良『僕らの国』(光文社)を読んだ。
 南関東大震災やそれに乗じた某国の侵攻で崩壊した近未来の日本が舞台。政府が復興を目指して高度な全体主義体制を造り上げていく一方、関東地方はなぜか短期間の内に巨大なジャングルに覆われて実態不明の無法地帯になっていた。
 主人公は高校の生物部の部活動として仲間たちとジャングルの中に潜入し、大自然の中に取り残された特殊な学校の生徒たちに遭遇する。日本が滅んだと思い込んで独自の秩序のもとで厳しい環境を生き抜いていた少年少女たちの生活は、外部の人間を迎え入れたことで大きく揺らいでいく。一方で主人公たちもまた未知の世界に接して変化していく。
 秘境探検に始まりサバイバル、ゲリラ戦、カルト宗教、ミステリ、政治闘争、教育問題、バイオテクノロジー、青春などなど、様々なジャンルの要素を取り込んで一気に読めるが、惜しみなく詰め込みすぎたせいでクライマックスが盛り上がりに欠けていたのが残念である。
 震災や戦争により一度完全な崩壊を見たものの、少年たちは崩壊前の秩序の残滓やそれを維持しようとする大人たちの思惑に縛られるしかない。「熱帯化した東京」というビジョンは古川日出男の『サウンドトラック』のヒートアイランドを連想させはするが、彼の作品が現代の東京に重ね合わせるかたちで熱帯化によって変容した都市を描いているのに対し、佐神の描く未来の東京は過去からは断絶されている。にもかかわらず、少年たちは見えないかたちでかつての日本のつくりあげた制度に縛られ続けている。古川の場合は既存の秩序からは断絶している。二人は方向性は似ているものの実際は正反対の物語を描き出しているのである。その対比の限りにおいて、正直3.11後には現実味を欠くことおびただしいとはいえ、この物語はある程度現代世界の戯画たりえている。

僕らの国

僕らの国