志茂田景樹『新黙示録 北海の秘祭』B、熊谷達也『七夕しぐれ』B+
【最近読んだ本】
志茂田景樹『新黙示録 北海の秘祭』(徳間文庫、1988年、単行本1983年)B
実は志茂田景樹をちゃんと読むのは初めてである。昔たしかこの著者の『水滸伝』を読んで、「イケイケボーイの林冲」などという記述にくらくらしたのは憶えているが、それきりであった。
本書は、伝奇小説ということであまり期待していなかったのだが、意外に面白かった。その理由として、シリーズを通しての主人公を置かず、独立した話になっているのが良いと思う。だいたい伝奇小説の主人公というのは、頭が良くて常に落ち着いていて、なにが起こっても神話や民俗学で説明してうまく対処してしまい、常に自分は安全圏にいるようなものが多く、カッコいいのかもしれないが面白みがない。本書は単発の主人公なので、がっつりと当事者であるし、最後まで生きているかどうかもわからないところが良い。
主人公が海岸にたたずんでいると、全裸の女性が砂浜に打ち上げられているところに遭遇するという、いかにもな導入に始まり、その二人と主人公の恋人(人妻)の三角関係が軸になって進む。おかげで、よくある「謎」が提示されて、それを主人公たちが追う知的読み物としての伝奇小説よりも読みやすかった。白痴とも巫女ともとれる謎めいた女性、彼女にどうしようもなく惹かれていく主人公、それを必死に自分につなぎとめようとする恋人、彼らを巻きこんで暗躍する謎の組織、そして継体天皇の時代から続く暗闘――と、追いつ追われつの物語は多少飽きてはくるが、最後まで読ませる力はあった。
熊谷達也『七夕しぐれ』(光文社文庫、2009年、単行本2006年)B+
小学五年生の少年・和也は、父の仕事の都合で東北の小さな町から仙台に引っ越してくる。田舎者と仲間外れにされるのではないかという不安はあったものの、それは杞憂に終わり、和也はクラスにも徐々になじんでいく。だが、一方で気になっていることがあった。最初に友達になった、近所に住む同級生のユキヒロ、そしてその幼なじみのナオミが、クラスの中で妙に無視されているような気がするのだ。和也はなんとか彼らと仲良くしようとするのだが、クラスメイトたちはなぜか冷たいままで……
ごく普通の少年小説のように始まって、話はいつの間にか、子どもたちが部落差別を通して社会への対決を挑む、大きな物語に広がっていく。小学生らしくない狡猾で理不尽ないじめや、それに加担する教師たちなど、読んでいてなかなかつらいところもあるし、クライマックスを飾る、みんなを巻きこんだ「大事件」のあと、すべてが解決するというわけでもない。しかしそれを通して、差別の中で抵抗を諦めきっていたユキヒロたちが心を開いていくところは文句なしに良いし、たとえ大人たちがわかってくれなくても、彼らの友情は本物だと思える。味方になってくれるヤクザや風俗嬢のような外れ者の大人たちも良い。
続編をにおわせる終わり方なので、これから探してみる。