DEEP FOREST/幻影の構成

読書記録。週2冊更新。A:とても面白い B:面白い or ふつう C:つまらない D:読むのが有害

田口ランディ『コンセント』B、門田泰明『黒豹伝説』B

【最近読んだ本】

田口ランディ『コンセント』(幻冬舎文庫、2001年、単行本2000年)B

 アパートの一室で腐乱死体となって発見された兄。妹の朝倉ユキは、理由のわからない彼の死に戸惑う。興味を引かれたのは、死体の傍にあった、コンセントをつながれたままの掃除機。彼はそういえば、昔の映画で見た、コンセントにつながっているときだけ生きていると感じられる少年の話をしていた。ユキは兄の死の謎を探るため、かつての指導教授のカウンセラーを訪ねる。

 ある人間の死の謎を探るという、ハードボイルドのような始まり方をするが、彼の知人をたどって人生を明らかにするのではなく、カウンセラーに会って彼の内面と自分とのかかわりを考えるというのが、アプローチとしては異色かもしれない。かつて恋人のような関係だった指導教授、同じゼミにいたエリートの女性、自分に積極的にアプローチをしてくる男性などとのかかわりの中で、しかし満足のいく答えは得られず、ユキは人の死の匂いを感じ取る不思議な能力を手がかりに、精神世界へと踏み込んでいく。

 前半はまだ兄の死を探ろうという気があるのだが、後半からスピリチュアルの色彩が強くなり、終盤はシャーマンとして覚醒し、人の心を読んだり未来を予知したりして、今まで会った人たちを凌駕する存在になるという、スピリチュアル志向の人間の願望を具体化したような話になる。初めて読んだときは気持ち悪くて仕方なかったが、久しぶりに読むと多少冷静に読める。

 驚くべきはこれが2000年にベストセラーになったということである。一般的には1995年にオウム事件が起こり、それまでの精神世界やスピリチュアルのブームは一気に退潮したといわれているが、スピリチュアルど真ん中のこの作品が2000年にヒットしたというのは、オウム以後も、そして1999年のノストラダムス以後もスピリチュアルへの憧れは社会に存在し続けたことを示しているのではないだろうか。

 

門田泰明『黒豹伝説』(ノンポシェット、1990年、単行本1987年)B

 門田泰明を読むのは初めてで、黒豹とタイトルにあるのはこれが最初のようなのでこれが第一巻かと思ったら、第一作は「帝王コブラ」というものらしい。そのためこれも、前作の事件の回想から始まるのだが、まあさほど影響はない。

 主人公は黒木豹介というわかりやすい名前の、殺しのライセンスを与えられた「特命武装検事」で、年齢は37か38歳、素手で瓦20枚を叩き割る圧倒的な戦闘力とたぐいまれなる洞察力で、世界中の秘密機関から怖れられている。秘書の高浜沙霧とともに、武装ヘリ・ヒュイコブラを駆使して危険な地にも敢然と乗り込んでいく、しかし弱者には優しく、特に女性には絶対に銃を向けないために危機に陥ったこともある――

 と、設定を並べて来ただけで食傷気味になるが、読んでいる間は圧倒的な安心感がある。

 本書は冒頭4ページ目で、震度7地震が東北地方を襲うところから始まる。その被害は、北上川雄物川の川幅を拡大させて、本州から分断しそうになるほどであった。地震の被害を調査する黒木は、やがてそれが人工的に起こされた地震であることを知り、背後に隠された陰謀に迫っていく。

(一応、以下ネタバレ)

 東北地方を分断して北海道と一体化したところをソ連が占領、さらに地震によって出現した大金鉱をも支配するという、謎の組織のスケールの大きな陰謀であるが、読んでいて思ったのは震災前の小説ということである。まるで特撮を見ているような気分で、街や大地が破壊されていく。ひょうたん島のごとく敵基地を抱えて移動する人工島など、アイデアは面白いものの、今読むと能天気さは否めない。

 しかし日本が分断寸前まで行くほどの大地震があったわけだが、このあとのシリーズはこれを引っ張って進むのか、それとも何事もなかったようにリセットされるのか。長期シリーズものだけにどうなったのか気になるところ。