DEEP FOREST/幻影の構成

読書記録。週2冊更新。A:とても面白い B:面白い or ふつう C:つまらない D:読むのが有害

  浅暮三文『石の中の蜘蛛』B、ドン・ペンドルトン『眼と眼が』C

【最近読んだ本】

浅暮三文『石の中の蜘蛛』(集英社文庫、2005年、単行本2002年)B

 浅暮三文の本を久しぶりに読んだ。彼の作品の多くは奇想小説に分類されると思うが、アイデアは奇抜であっても小説自体はスタンダードに徹しているというところに特徴がある。本作も、異常聴覚をもつ男が主人公であるものの、小説の枠組み自体は、ロス・マクドナルドばりの、失踪者を探すハードボイルド小説である(というのは山田正紀が解説で触れている)。

 実際、異常聴覚を駆使して、元いた住人の知られざる生活がよみがえってくる――たとえば床のへこみ具合を音で感知して、ベッドを置いていたところや住人が毎晩歩き回っていたところを読み取る――あたりは、都市小説において、見知らぬ他人の生が浮かび上がる瞬間と同じものである。ハードボイルドがそうであるように、本作もまた都市小説の系譜に置かれるべきものだろう。安部公房山川方夫など、非現実を持ち込むことで都市に暮らす人の生を描いた作家のグループに入れられるかもしれない。やや古典的とも言える。

 彼の聴覚によって捉えられる世界を、比喩を駆使して表現していて、やや読むのが大変であるが、だんだん本当にありそうに思えてくる。しかし最後、その一部は彼の妄想に過ぎなかったことが明らかになり、その瞬間、彼には孤独を与え、読者は現実に戻される。帰り道まで用意されている異世界旅行は、デビュー作の頃から変わっていない。

 

 ドン・ペンドルトン『眼と眼が』(石田善彦訳、ハヤカワ文庫、1989年、原著1986年)C

 登場人物紹介によると主人公が「超能力探偵」ということで、SFとミステリの融合!と思って読んだら、SはスピリチュアルのSだった。超能力者とは人類の進化した形であり、やがて人類は物質文明を脱し、肉体を捨てて高次元体にいたる――という、昔なつかしいニューエイジのビジョンが最初から最後まで能天気に描かれる。その楽観ぶりは、田口ランディの『コンセント』三部作を読んだときのようなめまいがあった。当時はそれなりに説得力を持ちえたのかもしれないが、さすがに今読むときつい。本作は全6巻の2巻目で、3巻以降は訳されなかったようだが、それも仕方ない。